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超短編小説  108物語集(継続中)

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 洋一は赤い毛糸を手にし、たかたか指を差し込んで山を作ってみた。
 そう言えば、あの頃、この簡単な山を作って郁子に差し出すと、細い指を絡ませて、器用に取って行った。洋一は不器用で、そこから何の形も取り戻せない。「お兄ちゃん、はよ、取ってよ」と妹は急かし、可愛く笑っていた。
 洋一はあの頃と同じように、両手の中にある山を前へと突き出した。するとどうだろうか、糸に指を絡ませる微かな感触を覚えるのだ。

 洋一は反射的にそれを辿り、きっとそこにあるであろう手首、それを思わずぎゅっと掴んだ。
 細くて柔らかい腕の温もりがある。明らかに郁子だ。
 洋一は思い切って引っ張り上げた。すると驚愕! 郁子の上半身が目の前に現れ出てきたのだ。

 腰から上の姿をいきなり見せた郁子が「一緒に遊ぼうよ」と誘ってくる。だが洋一は、五〇年ぶりの対面だというのに、妙なことを考えてしまう。
「このまま郁子をこちらへと引っ張り出せば、五〇年前のあの場の郁子はいなくなる。ということは、郁子は五〇年前の三月三日に取り残されてるのではなく、現在の俺が、つまり当時から考えて、未来の俺が、ここであの時の郁子を引き抜いてしまう、そのことから……、神隠しが起こったのかも知れないなあ」