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赤ペンラブレター

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下駄箱を開けるとラブレターが入っていた。本来だったら喜ぶところだが、それが自分で書いたものなのだからそうもいかない。しかも昨日好きな人に渡してきたばかりのものなのでなおさらだった。
 ラブレターが返却された。いままで何度も女の子に振られてきたけど、こんな展開は始めてのことだったので、一瞬その意味を分かりかねた。
 「――思いも受け取る気にもならないってか……」
 僕はその場でうなだれた。
 
 意気消沈のまま教室へとぼとぼと歩く。途中友達に挨拶されたが、あいまいに言葉を返すことぐらいしかできない。いまの僕は教室に向かうのが、というより自分の席に座るのが電気椅子に座るより嫌だった。
一体なにがいけなかったのだろう? やっぱり面と向かって告白する勇気がなかったからラブレターにしたのがだめだったんだろうか?
もしかすると文面が悪かったのかもしれない。そう思った僕は教室へ行かずにトイレに向かった。
教室内で誰かにこのラブレターが見つかったら一生物の恥だ。しかも相手が相手だけに、卒業まで笑いものにされる。トイレに誰もいないことを確認してから個室に入り、封筒から手紙を取り出した。
 
 「なんじゃこりゃ」
 手紙には赤字の書き込みが増えていた。僕が書いた文章の隣に『誤字、脱字が多い』『表現が冗長すぎる』などといった指摘が、いろいろと書かれていた。もちろん僕はこんなものを書いた覚えはない。とすると考えられることは一つ。ラブレターが添削されて戻ってきた。
 あまりのことに泣きそうになった。さすがにこんな仕打ちはあるだろうか。僕の書いた文面もできるだけ客観的に読み返したが、素直に相手のことを好きという気持ちを書いていて別段気に障るようなことは書いていない。
 「嫌われてるのかな……」
僕はラブレターを出した相手のことを思い返した。
 
 
 仁科悠子は学校一の秀才でありスポーツ万能。しかも美人ときていて、もはや漫画の中の住人と言われても驚かないほどの才色兼備っぷりだった。しかし対人関係に対しては冷たく、誰にも愛想を向けず、ほとんど喋らないせいで、クラスの中でも孤立していた。
 男子からは高嶺の花のようでとても近づけたものではなく、女子からは普段の態度がお高く留まっているように見られ、嫌われていた。きっと告白しようとする奴も、仲良くなろうとして声をかけるやつもほとんどいなかったに違いない。
 だが、本人は周りからのそうした評価はどこ吹く風といった様子で、一人学校生活を送っていた。
 僕は仁科に対しては確かにきれいだとは思っていたが、あの冷たい感じが苦手で話しかけたこともなかった。仮に話しかけていたとしても、無視されていたとは思うが。
 
 しかし三ヶ月に一度の席替えで、あろうことか仁科の隣の席になってしまったのだ。これから掃除や実験の班が一緒と考えると、気まずい空気になることは目に見えていたので憂鬱だった。
 そして席替えから数日後。先生から問題集を配られたので、裏にサインペンで名前を書いていた。隣をふと見ると仁科はすでに書き終わったようで、右手に持ったペンにキャップを被せ、左手の手のひらに押し付けキャップを付けようとしていた。
 何気なくその動作を見ていると、ペンを横に向けすぎていたため、キャップが床に落ちた。だが、仁科はそれに気づくことなくペンを手のひらに押し付けた。そこでキャップが落ちたことに気づいたようでペンを確認している。
 
 どうしよう。キャップが落ちたことを教えようか教えまいか。何気ない一言ではあるが相手が相手だけに妙に緊張する。悩んだ末一呼吸起き、意を決して声をかける。
 「あ、あのー、キャップ、下に落ちてるよ」
 仁科は僕の言葉に下を見てキャップを拾い、今度こそペンにつけた。そのまま何もなく黒板を目を向ける。
 「手、インク付かなかった?」
 仁科は左手の手のひらを一目見て、そのまま僕の方に向けた。親指の付け根の辺りにぽつんと小さく黒い点が付いていた。見せ終わると手を隠すようにして左手に握りこぶしを作り、膝の上に置いた。
 その時、胸の奥でどぎゅると音が聞こえた気がした。急に鼓動が速くなってくのを感じる。何故かその動作が最高に可愛く見えたのだ。
 普段完璧で人と接しない彼女が、ふいに見せたドジな一面にやられてしまった。簡単に言えば好きになってしまったのだった。

 
 それからどう告白しようか考えぬいた結果、ラブレターを出すことにし、今のような状況になっている。
 僕は赤字だらけのラブレターを読み返した。やっぱりこれは振られたってことなんだよな……。
 一つ一つの赤字を読んでくと、確かに指摘されている通りなのが余計に恥ずかしい。あとで教室で顔をあわすと思うと悶え死にそうだ。
 好きになったきっかけも、素直にペンの件を書いていたので、どれだけきついことを書かれているかと身構えたが、『恥ずかしいことをいつまでも覚えてないで』と小さく書かれているだけだった。他はみんな堅い口調だったのに、ここだけ違う。それだけ怒らせているのか?
 
 精神的にダメージを受けながらも最後まで読み返すと、手紙の裏側から赤く文字が透けていることに気づいた。裏側にも書いてあるのか……。僕は憂鬱になりながらも手紙を裏返してみた。
 そこには『再提出』と書かれたハンコが押されていた。
作品名:赤ペンラブレター 作家名:ト部泰史