夏のなか
暑い、午後の日も傾いてきた頃
眠りから覚めた。
草原の広がる、澄んだ空気がただよう高原。
朝だったのだろうか、青白い景色に深い霧が立ちこめ、
遠くに見えるはずの山脈は見えない。
私はその広大な場所に、ひとりの少女をみとめた。
白いワンピースに、つば広の白い帽子をかぶっている。
帽子に巻かれた水色のリボンが、
時折吹きつける湿った風で揺れる。
なつかしい色だ。
私は少女の名をよんだ。
よんでいた。
少女は振り返らない。
私は歩をすすめ、草に分け入り、
少女のそばへきて、じっと見つめている。
そんなところで今、目が覚めた。
つい先日、親類の葬儀があった。
夏の葬儀ほど、悲しいものはない。
いのちの喜びを謳歌する、輝く緑。
蝉時雨の中、盛夏の力強い日差しを
黒い喪服を通して感じる。
どうしたって、この時期は生々しい。
私は同じ血を流し、生きていたはずの亡骸を見つめ、
もう、なにも通わないその姿を目の当たりにし、
この世界との対比に耐えがたい思いをしまいこんだ。
私はむせるような緑のアーチを抜ける。
いつもの散歩道で、この場所だけは空気がちがう。
そうだ…
いちばんあの高原に近い空気なのだろう。
懐にしまったハンカチで額をぬぐう。
汗は木綿にジワリとしみ込んだ。
私の横を、子どもたちが走り抜けていく。
そろそろ、ひぐらしが鳴きはじめる時間か。