遥か彼方【詩集3】
揺れる炎の向こう
揺れるろうそくの炎の向こうに
あなたの面影が揺れる
あれはいつだったろうか
深い森の奥にある小さな湖を二人で見に行った
山奥の道なき道を二人で歩いたね
崖の淵を辿り
険しい岩を上り
沢を分けて
誰も訪れない深い山の奥にある小さな青い湖
深い森が突然途切れてそれは姿を現した
人里の喧噪を離れた
深い森の奥、誰を待つでもなく
それはただ静かにそこにあった
時折梢を揺らし、頬をかすめるすゞやかな風
遠くに微かに聞こえる寂しげな鳥の声
穏やかな日差しに照らされ
湖面は鏡のように青く輝いていた
着いたときには二人とも汗だくになって
ロマンチックのかけらもないねと君は笑った
空と森と湖と
僕らを照らす陽の光だけを証人に
あの日僕らは二人の愛を確かめあった
あの日のあなたの笑顔と
泣き顔が
今も瞼に焼き付いて離れない
あれからどれだけの月日が流れたのだろう
答えてくれる君はもういないけど
僕は良い夫だったかな?
揺れるろうそくの炎の向こうに
今もあの日の君の面影が揺れる