翡翠(かわせみ)
夜風はそっと開けた窓から忍び寄り
静かに疲れた僕の足を優しくさすったかと思えば
日常にあるものを捨てろと言わんばかりに怒り狂って
僕の体ごと夜空へと吹き飛ばそうとする
僕はベランダの手すりに掴って
飛ばされまいと
必死で抵抗するが
もう力尽きている
あっという間に
二つの月の間に放り出されて
夜空を彷徨う翡翠(カワセミ)に姿を変えた
翡翠に姿を変えた僕は
時折、天上へ長く続く梯子に止まり羽を休める
地上の見慣れた現実をぼんやり見ながら
様々な思い出を回想しながら
月の狭間を流る川を
ゆっくりと遡上してゆく
愛しき者たちに
別れを告げながら
ゆっくりと
ゆっくりと
天上の世界に昇ってゆく
愛しき者達よ
またいつの日か
会える日を
僕は
いつまでも
待っています