深海の熱帯魚
智樹君が塁の首筋を触ると「おぉ、もう下がったみたいだなぁ」と言い、塁は「もっと触って」とふざけた。塁の、こういう正直な部分が好きだなぁと思い、私はニヤニヤしながらその遣り取りを見ていた。
塁はテーブルの方へやってきて、残っていた缶チューハイとポテトを食べ始めた。
「何かさ、俺ら何やってんだろうね」
愚痴っぽく言うので私は「何が?」と寝起きの塁を見遣った。茶色いストレートの髪の一部がぐしゃっとなっている。
「好き好きの連鎖でさ、何も生まれないの。バカみたい」
私も智樹君もプっと吹き出すと「笑い事じゃありませんよ」と塁は咎めた。
確かに、私は二人の事が同じぐらい好きだから、どちらかを選べと言われても選べないし、智樹君と塁は結ばれる事のない性に生まれて来てしまっている。何も生まれない。
「でもさ、自分の事を好きでいてくれる人がいるって、幸せじゃない?」
「そうだよ、俺だって塁に好きだなんて思ってもらって、幸せだよ」
ポーカーフェイスの塁の顔が珍しく赤く染まる瞬間だった。カメラで撮って脅しに使ってやりたいとさえ思った。
「でも俺は智樹にケツの穴差し出す予定はないからな」
智樹君は盛大に笑い「お前が下って決まってんのかよ」と言ってまた大笑いした。