小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

深海の熱帯魚

INDEX|19ページ/42ページ|

次のページ前のページ
 

 分かっていたような顔で塁はそれに応じ、負けた。空いた容器とスプーンを、お店の横にあるごみ箱に入れてくる係になった塁は、かったるそうに立ち上がって何かぶつくさ言いながら歩いて行った。私と智樹君は二人になった。
「海、いこっか」
 私の顔を覗き込むようにして笑顔を見せる智樹君に戸惑い「え、でも、ほら、荷物」消えいるような声で呟くように言うと「貴重品無いから大丈夫だって」と言って私の手首を掴み、強引に引っ張った。
 私は声を上げる隙もないまま海へと連れて行かれ、あっという間に足が水に浸かっていた。目を合わせた智樹君は、やっぱり笑っていて、対して私は笑っていなかった。
「俺が腕掴んでも、大丈夫だったな」
 へ?と自分の手首に手をやった。そうだ、手首、掴まれたのに。一瞬過ぎて反応できなかった。
 私は彼の方を見て、笑いたいのにうまく表情が作れなかった。
「智樹君の行動が一瞬だったから、反応できなかっただけだよ」
「それでも大丈夫だったよ。一歩進歩した」
 そう言うと、思いきり腕を後ろに引いたと思ったら、一気に上に持ち上げ、それと同時に水しぶきが降ってきた。
「ちょ、待って、本当に水着着てないから!」
 それを聞くなり智樹君はぱたりと動きを止めた。「ごめん」と呟いた声は半分、砂浜の賑わいと塩水の往復に掻き消されていた。
 視線を動かすと、塁が少し離れた場所でそれを見ていた。

作品名:深海の熱帯魚 作家名:はち