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おやまのポンポコリン
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novelistID. 129
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「最後の精霊」のCM

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【 「最後の精霊」のCM 】


「クリスマスで賑わう大通りを外れ、裏通りにある空き店舗の二階にその部屋があるのです」

 俺が経営するポンポコ書店に新しいテレビCM企画を持ち込んで来た広告代理店の上原は、まるで講釈師のような口調で話し始めた。

「賑やかなクリスマスソングもこの路地裏には届きません。冬の凍てつくような寒さが辺りを覆い尽くし、風音が響くのみです」

「凍てつくような寒さはどう映像で表わすんだ?」
 上原は一瞬舌打ちをしたように思えた。
「窓に付いた霜とか、凍った水溜りです」
「なるほど。それで?」

「そこに登場人物が二人現れます。なんと空を飛んでいるではありませんか!」
 俺は思わずハリセンを食らわしそうになったが、一応最後までその企画を聞いてみる事にした。

「一人は中年の男で、もう一人は黒衣を来た不気味な人物です」
「むう、死神か?」
「死神ではないようです。おそらくは精霊と思われますが、とにかく不気味なやつです」
「わかった。不気味なんだな」

「どうやら男はその精霊に導かれてここにやって来たようです」
「知ってる場所なのか?」
「いいえ、話は最後までお聞きください」
 営業マンは苛立ちを隠さなかった。

「『おお、ここは寂しい場所ですね』桜氏(さくらうじ)という男は精霊に言います」
「男には名前があったんだな」
「そうです。しかし、精霊は何も答えず、その桜氏と書かれた立派な表札を指さします」
「立派な表札? アパートに?」

「『おお、これは私が豪邸に住んでいた頃の表札だ』と、男が叫びます」
 上原は俺の質問に作中の会話で答えた。

「『するとここが、私の未来の住居ですか。なんとわびしい住まいだろう』男が嘆きます。しかし耳を澄ますと部屋の中から数人の話声が聞こえるようです」
「ふんふん、それで・・・」
 俺は上原の巧みな話術によって物語の中に誘い込まれてしまった。

「『おや、あれは分かれた妻と娘だ。妻は老けたが娘は大きくなっているな。もう女子高生なのか? そうか十年は経過しているんだな。やや、不味いぞ! 私の浮気相手のスナック亜季ちゃんのママも来ている!』男は興奮した物言いでしゃべりますが、ふとその場に誰かが欠けていることに気が付くのです」
「どこかで聞いたような話だな・・・」
 俺は首をかしげて記憶をたどった。

「見知った顔が揃う中で、桜氏の姿だけがありません。そこで彼は震えながら尋ねます。『精霊さん、そういえば妻たちは喪服のようだが、いったい私はどこにいるのです?』と・・・」
「クリスマスキャロルのパロディか? あれは俺が子供の頃、大好きだった小説だぞ」
 俺は不満を言ったが上原は無視。

「精霊は押し黙ったまま部屋の片隅にある小さな祭壇を指さします。線香の手向けられたその祭壇にあるのは小さな骨壺と黒いリボンがかけられた桜氏の遺影でした。男は穏やかな表情になり『そうか、私は死んだんですね。それでみんなが来てくれたのか』と涙ぐみます」
「みんなが来てくれた? クリスマスキャロルでは誰も来てくれないんじゃなかったか?」

「そうです。しかし、この話の恐怖はここからです。娘が『お父さん、もっと早く会いたかった』と言いながら祭壇に近づいた時、一陣の風が窓の隙間から吹き込み家具から何かが落ちて来ます!」
 上原はここぞとばかりに声量を上げた。
 
「娘が拾うと、それはタイトルも言えない程、いやらしいアダルトDVDでした。驚いた娘が押入れの中や家具の引き出しを開けると、出るわ出るわ。変態ポルノやロリコンアニメ!」
「そりゃ恐いわな・・・」
 俺はジト目で相槌を打った。

「桜氏が『ギャー!』と悲鳴を上げた所でナレーションが入ります。『見なくなったDVD、ゲームは、あなたが生きているうちにポンポコ書店にお譲り下さい』と・・・」

「却下!」
 俺は冷たく言い放った。


        (おしまい)