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霧島卿一朗
霧島卿一朗
novelistID. 36792
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私の話

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これは私の友人の話だ。
 彼女は小難しい話題を好む傾向があって、私は随分と困らされた。それでも私はそんな会話をどこかで楽しんでいた。お互いにお互いが校内で唯一の友人だったからだろう。
 そんな彼女との会話で、特に記憶に残っているものがある。あれは高校二年の夏だった。
 どうして人は人とつながろうとするのかな、と彼女は言ったのだ。
 それだけならば普段と似たような会話となるはずだった。だが、その日の授業中にちょっとした事件が起きていたので、私はぐっと興味を惹かれた。
 授業中の事件。それは喧嘩だった。二人の女子が突然罵り合い、あっという間に取っ組み合いに発展した。そのすさまじさは、教師がしばらく唖然と立ち尽くしてしまうほどだった。
 最終的には私を含む男子数人によって女子たちは取り押さえられ、様々な憶測をされながらも一応の解決となった。小耳に挟んだ話によると、あの二人は以前から険悪な関係で、それが小さなことで爆発したらしい。
 そんなことがあったので、私はいつもより熱心に彼女と語り合った。場所は自転車置き場。私たちは、それぞれの愛車に跨っていた。
 彼女曰く――断っておくが、僕は友達という概念については否定しない、それどころか全力で肯定したいとすら思っている、だけど僕には友達の概念について肯定できるだけの知識がないんだ、友人と呼べるのは君くらいだから絶対的な経験と知識が不足しているんだ――とのことだ。
 彼女の実家は、いわゆる旧家で、一人称が僕であるのも地域の風習らしい。やや閉鎖的な地域で、訪れた私に好奇の視線を向けられたと記憶している。
 さらに彼女は続けた――僕としては、人に近い生き物が人しか存在しないからだと思うんだ、ほら、人は地球で最も賢い生き物だろう、チンパンジーも賢いそうだけど、やっぱり畜生の域を出ない、人は賢いが故に孤高だから、せめて同族でつながろうとするんじゃないかな――と。
 それに対して私は――寂しさを埋めるってことは、つまり傷の舐め合いであって、結局は友達という概念にとってマイナスイメージなんじゃないかな――と返した。
 彼女はむっとしたように首を傾げて――へえ、じゃあ、僕たちの関係も傷の舐め合いなのかな――とやや意地悪なことを尋ねてきた。
 私は苦笑して――私もお前も孤独には慣れているだろ、これは人らしさを失わない為の最低限のコミュニケーションだ――と言ってやった。
 すると彼女は――つまり、君は、必要最低限のコミュニケーションさえできれば、それで満足なんだな、ひょっとして、必要以上に友達をつくる人種を見下しているんじゃないかな――とさらに意地悪なことを尋ねてきた。
 もちろん私にそんな感情はなかった。マイペースすぎる私からすれば、友達がたくさんいる人は、それだけで尊敬の対象となっていた。自分にできないことをあっさりと成し遂げる人がいるならば、誰でも一目置くだろう。
 私は――それはない――と断言した。
 彼女は――どうかな――とせせら笑った。
 私が彼女から馬鹿にされたのは、後にも先にもこれが最後だった。根暗なくせに気の短い私は、その場から黙って去った。
 私が今でもその日のことを鮮明に覚えているのは、そんな珍しいことがあったせいに違いない。
 その彼女が、結婚した。
 進学によって県外へ出ていた私は、彼女からの一年ぶりの電話によって結婚の話を知った。相手は私たちよりも幾つか年上で、二日後に挙式とのことだった。
 彼女は――どうする――と尋ねてきた。
 二日後はまだ平日で、大学の授業やアルバイトのシフトが入っていた。下宿先と実家は、電車でも半日の距離だ。
 私は――行くよ――と答えた。
 電話越しの彼女は意外そうに受け答えしていた。どうやら、駄目元で聞いたようだった。
 私は急いで切符を買いに走り、式の前日には地元に戻った。実家には顔を出さず、カフェで一夜を明かした。
 私はスーツを着て、貧乏生活から捻出した御祝儀を手渡して、年齢層の高い会場へと入った。
 彼女から新郎を紹介された。ねじり鉢巻きをして米俵でも担いでそうな豪快な方だった。やはり農業をしているそうで、彼女とはお見合いの席で知り合ったらしい。
 私と彼女との間に会話は少なかった。彼女がずっと新郎の隣にいたということもあるが、私が新郎新婦の親類や知人から声をかけられ続けたのが主な原因だった。
 お色直しの際に、私は彼女の控室にお邪魔した。
 彼女は――本当はスピーチでも頼もうと思ったけど、君はそういうの苦手だから、勘弁してあげた――と偉そうに言った。
 私は――それは賢明な判断だった――と言った。
 今も彼女とは細々と連絡を取っている。
作品名:私の話 作家名:霧島卿一朗