繁栄は失墜の始まり
目の前の景色では、ありえないことが繰り広げられていた。普段なら到底思いつきもしないことで、想像できないことでもあった。それが、今自分の目の前で起こっているのだと思うと、誰かに言いたくてたまらなくなった。すごい、すごいぞ。体はいまいちこの光景を信じられずにいるのか、全身の感覚が鈍い。おかげでこの場から動けない。しかし耳は、光景の一部の観衆が口をそろえて高らかにあげる叫び声を、しっかりととらえていた。
隣の男は自分とは正反対で、無表情にこの光景を見ていた。隣にひそむ高揚感にはまるで気付いていないようだった。
なぜ彼は、こんなにも静かなのだろうか。この素晴らしい出来事に、なんの感慨も抱かないのだろうか。壮大でありながらはかなくも見える、この、まるで幻のような、この景色を。
思ったことは口とシンクロしたようだ。幻のようですね、と一体何のことかと首をかしげてしまいそうな言葉をかけてしまった。けれどもそれ以上何か言う気にもなれなくて、目の前を見続けていた。男が口を開くのを感じた。
そうだな、いっそのこと、幻だったら良かったのにな。
驚いて、男の顔を見た。男は前を向いていて、幻のような景色を見ていた。小さな声が、男の口から吐き出された。
滅びが始まる。
繁栄は失墜の始まり
(この光景が、本当の幻になるのは百年後。