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 去年買った礼服に初めて袖を通した。彼女の通夜には意外と人が集まっていた。
 年齢のせいか同年代の参列者が殆どで僕は居心地が悪く、また独りになる事で彼女を占有出来る気がして早々に葬儀場から帰宅した。
 通夜には彼女の遺体が無かった。遺体はおよそ人目に晒す事の出来ない状態の様で置かなかったそうだ。
 彼女とは中学が一緒だっただけで、当時特別好きだった訳でもないが僕が惚れっぽい所為でセックスをしたかった相手の一人だった。

 彼女の髪は黒く真っ直ぐで、光の当たり方で青みを帯びる。窓際で彼女が僕の前の席になった時に気が付いた。つむじと制服の白の所為で彼女の印象はモノトーンで、柔らかくも鋭い朝の陽の光が彼女に差し込み溶け合う様は何とも言い難く、それに溺れる自分は感情も何もないフラットな存在になった気がした。
 彼女は友達に恵まれなかった。一人か二人いた様だが親友と呼べるものではなく、本人がどう感じていたかは知らないが僕は彼女の佇まいに寂しさを覚えた。一人で美術準備室に入り、油絵具の準備をしている所を偶然目にした時、切なさと欲情が同時に湧いた事を覚えている。
 彼女は笑わない。笑ったとしても、それは社会に馴染むための手段として微笑んでいるだけで、可笑しいという事は恐らく理解出来ていない笑顔だった。きっと、テレビを見たり本を読んだりしても何が面白いのかさっぱりだっただろう。そんな表情をいつもしている彼女を、彼女が死んだ今思い出して静かに抱きしめたい感情に捉われた。

 貧しくはないが無趣味な夫婦の間に生まれた彼女はやはり彼女も何の愉しみも知らず、興味の対象もこれと言って無い事が彼女を独りにさせた、そう僕は彼女を認識し、そこに惹かれた。
 セックスを繰り返せば彼女はセックスに浸れるのだろうか。何度しようがやはり彼女はつまらなそうに、それこそ笑顔の様に社会に溶け込む為の喘ぎ声だけでその場を凌ぐのではないか。それを理解しながら、前戯の無い、避妊もしないセックスを彼女としたかった。お互い、つまらなそうに。

 彼女とは別の高校へ進学した為聞いた話でしかないが、彼女の処女喪失は強姦だったらしい。相手は誰か分からないし、輪姦という噂もあるのだが、どうも同じ高校の者に犯されたというのは間違いないという話だ。
 しかし彼女は中学の時、既に影の様な存在であった為、強姦されたからと言って突然人が変わったとかそんな事も無く、強姦の噂も知らない人は知らない、程度のものだったらしい。
 男というものは精通後、セックスの為なら様々な悪巧みをするもので、やはり彼女も強姦をきっかけに図られたようだ。
 強姦の噂を聞きつけたクラスメイトの男が彼女に言い寄り、彼女もまた人の優しさに触れる事のない人生だった為かなびいてしまった。男との最初のデートでこれまた半ば強姦のようなセックスをする羽目となったらしい。しかし彼女なりに愛情に飢えていたのか、それとも社会に溶け込みたかったのか、或いは自分を汚したかったのか、いずれにしても男と交際する事となった。

 男との交際はどちらかの家でセックスをするか、近所のファミレスで飯を喰うか、その程度の内容でしかなかった。高校生なのだから車も金も無く仕方ないのだが、それを続けるのはやはり無理があって、ものの数ヶ月で別れた。
 しかし男は性欲の捌け口として彼女を利用し続けた。彼女の死の間際まで、ずっと。

 それは彼女の通夜の直前に聞いた。そのかつて交際していた男が友達に話していたのを偶然立ち聞きしたのだ。
 男はやはり武勇伝がましく話し、友達も笑い混じりで聞いていた。彼女の死は置き去りにされ、セックスだけが一時的なエンターテイメントとして浮上していた。セックスを死が浮上させただけかもしれないが、何にしても只の下ネタとして彼女の通夜とセットになってその話は葬儀場の片隅で漂った。

 通夜で泣く者は居なかった。家族も無表情でお辞儀をするだけだった。遺影は微笑んでいた。社交性の無い自分が社会に溶け込む為に浮かべる、その笑顔で。
 何の愉しみを覚える事も無く、誰にも悲しまれず、死んでも尚、無であり続ける彼女を、僕は羨ましく、また愛おしく思った。彼女の事を正しく記憶し続けるのは、僕しかいない。

 朝、目が覚めて近所の土手を散歩した。大量の彼岸花が枯れていた。醜かった。
作品名:1 作家名:竹包奥歯