回帰
アタシは逃げ切らなくてはならない。目の前を舞う毒々しい蝶々。笑い転げる大きな蟷螂。嘲笑う人々、逃げ惑う人々。アタシはこのトチ狂った世界から、絶対に逃げ切り、元の世界に帰る。
アタシは無我夢中で走る。敵が追ってくる。敵が何者なのかもわからないけれど、アタシを殺そうとしている。間違いないもの、さっきアタシを睨んだ。さっきアタシを威嚇した。きっとアイツ、ヤツらの仲間なんだ。
周囲の人は恐れ慄いている。絶対に、彼らは守ってみせる。
敵はアタシのあとを追う。このまま人気のないところに逃げ込もう。それからだ。それから必殺技をキメてやる。それでアタシの勝ちだ。逃げ切れる。
ここはちょっと街を外れたところの雑木林だろうか。ここならいいだろう。いけ、アタシの必殺技――。
その時だった。
体中が鉛の様に重たくなる。たすけて。もう駄目だ、死んでしまうかもしれない。けれどここで死ぬわけにはいかない、懐から、アタシの「必殺技」を取り出した。
背後から足音が迫る。こんな時に限ってどうして。ほんとうに、もう駄目かもしれない……。
「大麻所持の現行犯で逮捕する」
元の世界に帰ってこられました。よかったね。えへへ。おめでとう、アタシ。