エイユウの話 ~夏~
そして彼らはそろった・1
この学校にも、曲がりなりにも夏休みというものが存在した。サートンと呼ばれる期間のことで、自主選択制夏期講習期間というのが正式名称だ。自主選択制なので、何も取らないという選択の余地もあるのだが、水泳や模擬サバイバルなど娯楽とも取れるサートン限定授業を取るのが普通である。
そして彼らもまた例外ではなく、サートン限定授業を受講していた。もちろん、最高術師の二人はそれ以外も強制で勉学授業の受講が定められているのだが。
ぬれた髪を拭きながら、キサカ・ヌアンサは更衣室に入った。先までプールの授業を受けていたところで、じゃんけんで負けた彼は自分たちの使用したビニールボールを片してきたところだ。
先に更衣室に入っていたキートワース・ケルティアの姿を見つけ、キサカは歩を進めた。近づいているのに気付いていないようで、何気なくかけた声に彼はひどく驚く。女生徒よりも綺麗な色白の肩を解りやすく動かして、さらにしゃがみ込んでロッカーに頭をぶつけた。
「大丈夫か?キース」
「ああ、うん。ごめん、驚いて」
見れば解るという言葉を飲み込んで、彼は今夏割り当てられたプール用の自分のロッカーに鍵を差す。回すとガチャリと解錠音が鳴って、扉が勝手に跳ね返るように開いた。慣れるまで頭をぶつける人が続出する、酷く攻撃的なロッカーである。
あれから彼らはなんとなく、現在隣の女子更衣室にいるラザンクール・セレナとアウレリア・ラウジストンを含んだ四人での行動を取り続けている。初めは何気なく集まって、何を言うでもなく散っていたのに、いつの間にか誰かがいないと待つようにまでなっていた。単独行動の多かったキサカには、今の自分が半ば信じられないように感じることもある。
しかし、彼らの関係は一向にして動いていなかった。キースとアウリーをくっつけようと奮闘するラジィは、未だに流(りゅう)の導師にベタ惚れ状態。そしてキースはそんな彼女に一途なままで、アウリーの片思いはラジィの手助けがあっても実らない。キサカから見ればくだらない堂々巡りだ。
ふと、隣で着替えるキースに尋ねた。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷