完璧なる密室
とある大富豪の当主の誕生日に屋敷で開かれた平和なパーティは、突如として大騒ぎとなった。たまたまパーティに参加していた警部は「とんでもないことになった」と、数々の難事件を解決してきた名探偵を呼び出した。駆けつけた名探偵は、すぐに警部に事情を聞いた。
「こんばんは、警部。早速ですが、お話を聞かせてもらいましょう。この私を呼び出したからには、何か事件が起きたのだろうとは容易に推理可能ですが、今度はどんな難事件なんです?」
「密室殺人だ。それも完璧な」
「密室ですか。なんとも甘美なる響きだ。私の140億個の脳細胞が早く謎に挑みたいと囁いていますよ」
「うむ。この謎は君にしか解けないだろう。何しろ、現場となった当主の部屋は扉も窓も全て施錠されていたのだ。私は扉を突き破り部屋へと入ったが、凶器の痕跡も発見できなかった。そして、扉の鍵は当主が常に持っていた一本とマスターキーのみであり、マスターキーも使用人室の中にあった。無論、使用人室の施錠も完璧になされていた」
「使用人室の鍵は? それが使えるのであれば、なんの謎もありません」
「使用人室の唯一の鍵はメイドが持っていたが、彼女はパーティの間はずっと忙しなく働いておったよ。彼女のアリバイは、この私が保証しよう。それどころか、当主がパーティ会場を抜け出してから、他に抜け出した者は私以外にはおらん。言っておくが、当主が抜け出す前は、会場にはパーティ参加者が全員揃っておったぞ」
「ふむ。確かに少しは歯応えがありそうな事件ですね」
「更にもう一つ」
「……まだ何かあるのですか?」
「いや、ないのだ」
「は?」
「実は死体もどこにもないのだ」