ザ・愛国者
「はは、つまりは、この戦争は仕組まれたものだったということさ。最初からシナリオがあったんだ。そして、そのシナリオを書いたのは、我らがヒーロー、田父神閣下だ。見事だ。そして、見事に群衆を、資源獲得のための戦争に導いている。
国民を怒りで扇動して、軍国国家に変えようとしている。お付き合いのある仲間、例えば、資源を安く手に入れたがる企業、そして、戦争をやって大儲けする軍需産業の資本家共だろう。そんな裏があるとも誰も分からず、扇動させられる。
扇動させられながら、みんないい気持ちだ。特に絶望の淵に落ち、生き甲斐を失った連中にとっては、救いがあるように思えるもんな。俺もまんまと乗せられたよ。閣下、あんたは名シナリオライターだ」
と民雄は映像の中で言い締めくくる。
「こんなのニセものだ。また、お前が作ったんだろう」と田父神、うろたえながら叫ぶ。
「はは、最初に俺が作った映像を本物だと信じて、それをさんざん扇動に利用しながら、今度は真実の映像をニセモノだと決めつけるとは皮肉だな」
と民雄。すると、会場に数十人の警官が入ってきた。皆、拳銃を構えて民雄をにらんでいる。
「おい、こいつをつまみ出せ。逮捕だ! 必要なら銃殺しろ。危険人物だ!」
と田父神が言うと、民雄は田父神にさっと近寄り、田父神の首を腕でまくってつかみ、銃口を頭に突きつけた。
「貴様ら、これ以上、近付くと、こいつの頭を打ち抜くぞ」と民雄は怖い怒鳴り声をあげた。
警官たちは、たじろんだ。田父神は、もの凄い力で腕をつかまれ身動きができない状態だ。
「こんなことして、ただで済むと思うな」
と田父神は言った。
「はは、安心しろ。覚悟はできている」と言った途端、民雄は銃の引き金を引いた。
キャーという複数の叫び声が、講堂に響いた。警官は、即座に民雄に向け発砲した。
だが、同時に民雄は自らの頭に向けて、自らの銃を発砲した。
警官の銃弾は民雄の体には当たらなかったが、演台の真後ろに掲げられていた日の丸を吊り下げていたかけ糸とかけ棒に当たり、日の丸の国旗が、演台の床にボトンと落ちた。
民雄と田父神は、その上に、自らの身を沈め倒れた。日の丸の赤い丸の上に、二人の男の血が流れ出し、赤色部分は、おびただしく周囲に広がった。
ああ、誰かが言っていたっけ、日の丸の白は、この国旗の元、殺された人々の骨の色、赤は、殺された人々の血の色だって。
お終い