「ゼロ」から始まるロマン
小学低学年の頃、近所に住んでいて時々一緒に帰宅していた女の子だ。
いつも彼女が話し役で僕が聞き役だった。
そこで、彼女の作った「結末のない物語」を聞かされ、保母さんか看護婦さんになるという彼女の夢を聞かされ、学校で起きた面白かった話を聞かされた(ボクには全然面白い話ではなかった)。
顔を合わせるのは7年ぶりくらいだった。
誰でもそうだけど、彼女も同様に過ぎ去った年月のほどに年をとっていた。
近況報告の中で彼女が婚約者と別れたことを聞いた(疎遠になっていたので僕は婚約していたことすら知らなかった)。
……「わたしたち、子供のころに二人でいろんな冒険したよね」
……「わたし、冒険する予定だったの。結婚して、子供を産んで、子育てして、子供の運動会で応援して、旦那や子供と時々喧嘩して、年をとって孫を抱いて、のんびり縁側でお茶なんか啜ったり…」
……「ねぇ、わたし、冒険したかったのよ。小さいけどわたしなりの…」
……「わたし、誰かと…じゃなくてあの人と冒険したかった。でも違う人と冒険に行っちゃった」
彼女は最後に寂しそうに言った。
「結婚はゼロから始まるロマンなの。人間って生まれた時から何かを得たり、何かを損ないながら成長するけど、結婚は違う。二人で何もないところから「家庭」を始めて育てていく。ちっぽけなんだろうけど、きっとすごい冒険の海が広がってると思うな」
彼女と最後に会ってから数年が過ぎた。
彼女は素敵な旦那と巡り会えて、今頃「冒険の海」をニコニコ笑いながら生きてるのかな。
旦那や子供と時々喧嘩して、近所のオバちゃん連中と噂話を楽しみ、子供の運動会にワクワクしながら出かけて…。
そうだったらいいな。
作品名:「ゼロ」から始まるロマン 作家名:ひで丸