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写真

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友人五人と旅行に行った時の写真を見ていると、ある事に気づいた。ない。何回見返してもそうだ。写っているはずのものが写っていない。
 次の日、写真を撮った友人の悠太に、そのことについて話してみた。
 「なあ、この前の旅行の写真なんだけど……」
 「どうした? そんな暗い顔して。写真に幽霊でも写ってたのか?」
 友人は冗談めかして言う。だが俺はそんなことに気を向ける気にはなれなかった。
 「いや、本来なら写っているはずのものが写ってなかったんだ」
 「……どういうことだよ?」
 「この写真全部をよーく見てみろ。そうすれば分かるはずだ」
 「おっ、脅かすなよ。何が写ってないってんだ」
 
 悠太は恐る恐る写真を確認していく。一枚一枚丹念に見ていったが全部を見返しても何かに気づいた様子はない。
 「……何が写ってないんだ?」
 「本当に分からないのか?」
 「ああ。それで一体何が」
 「俺」
 「え?」
 「俺がどこにも写ってないんだ」
 悠太は改めて写真を見てようやく気づいたようだ。
 「……ほんとだ。お前がどこにも写ってない」
 「これ、どういうことだ?」
 悠太はしまったという顔をし、ためらいがちに口を開く。
 「……ごめん、写してなかった」
 「……やっぱり?」
 「うん。実は俺一緒に行った洋子のことが気になっててな。それで無意識にお前よりも洋子を撮っていたみたいだ」
 確かに写真を見返すと洋子を中心に移っている。それにしても俺を一枚も写さないとは。悠太が無意識にやったというのが分かるだけに悲しくなってくる。
 
 「そんなに俺って存在感ないのかな……」
 「ごめんごめん、悪かったって」
 「だいたいこれとか見てみろよ。俺以外の全員が写ってる」
 俺が持った写真には俺以外の五人が写っていた。
 「……全員? 全員つったか?」
 急に悠太の顔が強張る。
 「どうした?」
 「ここにある写真は全部俺が撮ったんだよ」
 「カメラ持ってんのお前だけだったからな」
 「俺は基本的に自分が写真に写るのは好きじゃないから、セルフタイマーは使ったことがない」
 「そういえばそうだな」
 「それで、なんで俺がこの写真に写ってるんだ?」
 写真には洋子に寄り添うようにして悠太が写っていた。
作品名:写真 作家名:ト部泰史