詩集 風の刻印
破られた殻
僕の家の周りは麦畑だ
地平線がその黄金の色を
青く変えるところまで
どこもかしこも麦畑だ
誰が植えたわけでも
刈るわけでもないのに
そこには毎年麦が実る
道があった
いつの間にか出来ていた
どこかへつながるわけでもなく
その先は麦畑に呑まれて行った
僕は何も望んではいない
どこかに行くことも知らない
どこかに行くということがどういうことなのか
そんなことも知りはしないのだ
麦畑はいつまでも僕の行く手を阻んだ
歩いてどこかへ進むことを拒んだ
道は歩くたびに細くなっていき
麦はそれを侵食して
そのうち消してしまうのだ
ほら、みてごらん
麦畑の果てに道はない
道の果てるところは麦だらけだ
でも、道はできた
僕に進めと言い聞かせるように
今まで吹いたことのない風が麦を撫でる
僕は道に足を乗せた
そのままいつまでも細くならない道を歩いて
どこかへ向かった
足が軋んだ
太陽が色を変えた
やがて、麦はどこかへいった
新しい風が告げた
「海だ!」