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D.o.A. ep.34~43

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レーヤは、何一つ目印のない闇色の空間を、青いランプによる光だけで、迷いなく進んでゆく。
まるで、砂漠か雪原を歩いているようだ。
ただでさえ、この空間は異常過ぎた。
ティルも感覚を狂わせがちらしいこの場所は、ぼんやりしていると、自分が進んでいるのか後退しているのかわからなくなってしまう。
ただ平坦な場を歩いているだけなのに、沈んでいるような浮き上がっているような、不可解な感覚のせいで、急な坂道を歩いているかのように足が疲労する。
この小さな案内人の登場を待たず行動していたら、まぐれでもエメラルダのもとへは行けなかっただろう。

「レーヤはずっとここにいるのか?」
無駄口を一切開かないレーヤの小さな背に、ライルは疑問を投げかける。
そのよどみない歩みが、一時止まる。
「…たぶん」
少し自信なさげに、だが簡潔につぶやいて、レーヤはまた迷いなく歩き出す。
エメラルダが身を隠すために、このような奇怪な空間を作り上げたのだろうか。


そうして、壁にぶち当たった。
「?行き止まり、か?」
「ちがう」
短く否定の声をあげ、レーヤはそのまま壁に向かっていき、寸前にランプをことりと置くと、吸い込まれるようにして消えていった。
ぎょっとして、3人がしばらくその黒い壁を見つめる。
レーヤが吸い込まれていった部分は、青いランプの光を受けながら、薄く水面に波紋が起こったように揺れている。
そして、そこから再び、にょきりとレーヤが顔だけを出して、眉を寄せた。
「はやく、来い。エメラルダさま、待たせるな」
ライルは少し唾を飲み込んで、目をぎゅっと閉じると、あとに続く。微温湯のような温度が、彼の肌を通り抜けた。
そして、今までの空間とは明らかに異なった、ひんやりとした空気と、しっかりとした足場の感触を感じ取ったのだ。

ライルはおそるおそる目蓋を上げていく。そして、ぎょっと目を見開く。
足もとは薄青く光って、青緑色の光の粒が漂っているので、そこにあるものを肉眼でとらえることができた。
先程までいた奇妙な空間は背後になく、彼は突然、全く違う場所に出ていた。
最後に潜り抜けてきたリノンが目を瞠って、呆然と、そこにある光景の名をつぶやく。

「…森…」

まるで外に出たと錯覚しかけたほど、驚くべきことに、さまざまな種の植物が群生していて、まるで樹海のような景観をつくっていた。
光っているのは、目を凝らすと苔の一種らしい。
地底、と思われる場所に森がある、という現実離れした現実に、ライルらは唖然とする。
薄青の光に照らされたそこは、幻想的であり、また足を進めがたい神聖さと、不気味さもあった。
けれども、通常の森林にあるべき生物の気配を感じることはできない。
そのことが、この光景の作り物めいた雰囲気を強くしていた。
そもそも太陽光がない所で、こんな鬱蒼とした森林が自生するはずがないので、魔力によって成長しているのであろう。

「この奥で、エメラルダさま、ずっと待ってる」

レーヤが、少しだけ疲れたようにため息を吐いた。
いよいよ対面することと相成る、エメラルダとは一体、いかような人物なのか。
待っていると、レーヤは確かに言った。一体、賢者は何を自分たちに期待しているのか。
これから行くべき道を、示してはくれるのだろうか。
ライルらの心中には、さまざまな疑問がかけめぐっていた。


作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har