ももたろう
おひさまはしょんぼり。意気揚々と、桃太郎は鼻歌交じりに歩きます。
「鬼退治だ。鬼退治だ。きっと成功させたなら、おじいさんも、おばあさんも、喜ぶだろう。違いない」
桃太郎は、立ち止りました。
「退治するところを、誰かに見てほしいなあ。そうだ、そうだ。その通りだ。見てもらわないと、おれが嘘をついているだけだなんて、言われるかもしれないからな」
おひさまはしょんぼり。意気揚々と、桃太郎は鼻歌交じりに歩きます。
「鬼退治だ。鬼退治だ。どなたか共にゆかないか。おにいさんも、おねえさんも、大歓迎。大歓迎」
「犬は如何か、いけないか」
桃太郎は、舞い上がりました。
「いけないわけがないだろう。共に行こうぞ、我が友よ」
おひさまはしょんぼり。意気揚々と、桃太郎と犬は鼻歌交じりに歩きます。
「鬼退治だ。鬼退治だ。おれと犬とで行くのだが、おにいさんも、おねえさんも、大歓迎。大歓迎」
「雉は如何か、いけないか」
桃太郎は舞い上がりました。
「いけないわけがないだろう。共に行こうぞ、我が友よ」
おひさまはしょんぼり。意気揚々と、桃太郎と犬と雉は鼻歌交じりに歩きます。
「鬼退治だ。鬼退治だ。おれと犬と雉とで行くぞ、おにいさんも、おねえさんも、大歓迎。大歓迎」
「猿は如何か、いけないか」
桃太郎は舞い上がりました。
「いけないわけがないだろう。共に行こうぞ、我が友よ」
おひさまはしょんぼり。意気揚々と、桃太郎と犬と雉と猿は鼻歌交じりに歩きます。
「仲間はこんなものでいいな。お前ら、何もしなくていいぞ。おれが全てやってやる。村に戻った時には、おれの武勇伝をたっぷりと広めておくれよ」
犬は怒りました。
「お前、仲間をなんだと思ってるんだ。我が友と、確かにさっき、言っていたぞ」
雉も怒りました。
「おれはお前が鬼を倒せるとは思わない。倒せたとしても、お前は鬼と変わらないぞ」
猿も怒りました。ですが、猿は静かに言いました。
「おれはそれでも構わない。ただ、宝は四人で等分だ。それができないなら。……行こうや、犬、雉」
「ああ」
桃太郎は焦ります。
「待ってくれ、待ってくれ。ああ、そうだ。吉備団子があるぞ。食え、食え」
犬も、雉も、猿も、黙っています。呆れているのです。
ああ、桃太郎は、この程度の男だったのだ。
――山の噂の鬼退治。勇者の名は桃太郎なり。一度見に行ってはどうだ。
ああ、勇者はなんて、浅はかな。
犬も、雉も、猿も、黙って吉備団子をもぎ取りました。
手に取ると、あたたかみを感じました。
口に含むと、愛の味がしました。
愛の香りが、胸をくすぐり、桃太郎が、かわいそうになりました。
「行ってやってもいいだろう」
おひさまはしょんぼり。
「さあ、桃太郎。お前が一人前だったのは、威勢と自身だけだったぞ。それすらなくしたお前に、何が残っているんだい。ああ?」
鬼は桃太郎に、棍棒を振りおろしました。
その時です。犬が鬼の足に噛みつきました。鬼は驚いて、棍棒を放り投げてしまいました。
雉は嘴で鬼の目をつつきました。鬼は呻いて、後ろにのけ反りました。
猿は放られた棍棒を持ち、鬼の頭に振り下ろしました。
動かないのは、宝の山と鬼の死体と、呆然とする桃太郎だけです。
ようやく口を開いた桃太郎は言いました。
「お前ら、おれを、嫌ったんじゃないのかい」
犬と雉は顔を見合わせ、ふっと笑いました。
猿ははにかみいいました。
「吉備団子が、うまかったからだ」
桃太郎もはにかみました。
「ありがとう。そこの宝は全てお前らにやろう」
猿は桃太郎に背中を向けました。
「馬鹿野郎。四等分だ」
おひさまはにっこり。