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【オリジナル】縛りSSったー

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なんだか寒いわ、と外套を脱いだ女はどこか歌うような調子で呟いた。女にいつも付き従っている男がそっと受け取った外套を女の肩に掛ける。少し残念そうな、自嘲するような微笑みを浮かべ、しかし腕を通すことなく女は外套の前を合わせた。女の気に入りの古い暖房器具は随分前に壊れ、新しい物はない。

それでも女は耐えられなくなるまではと買い換えようとしなかったため、今年の冬はまだ一度も暖房を入れていない。まあ外套だけで耐えられるのだからと女は特に気にした様子もなく、これもまた気に入りのカーペットに腰を下ろした。少し硬いが、座っているとじんわりと体が温まっていく心地がする。

ほう、と溜息を吐いた女の目の前に男の無骨な手が伸ばされる。握られているのは水の入ったグラスと白い錠剤。1日数回、これを飲まなければならなくなったのはいつからだったか、女はいつも思い出せない。それでも飲まなければならないことは重々承知している女は受け取ると静かに薬を飲んだ。

一瞬、外に放り出されたような景色が女の脳裏に滑り込んだ。木が疎らに立ち並ぶ公園のような場所。ひゅうひゅうと、半分も残っていないだろう木の葉を落とさんとするように吹く風の音に女は小さく身を縮こまらせる。しかしきゅっと閉じた目を開けた女の目には不安や不可解さなどは映っていなかった。

また変な幻覚を見ちゃったわ、そう可笑しそうに言いながら男にグラスを渡すと女は静かにカーペットに身を横たえた。程なくして小さく寝息を立て始めた女に、戻ってきた男はそっと外套を掛け直した。

誰もが羨む邸宅、冬でも春や夏の美しさが想像できるような庭園、先祖代々から伝わるような調度の数々。威厳があり、しかし皆に尊敬された当主と、そんな夫の傍らでたおやかに笑む夫人。客人も使用人も夫妻を訪れる者はいつも楽しげで、そして誇らしげであった。誰もが幸せそうな屋敷がそこにはあった。

どこから狂い始めたのか。気がつけば財はこぼれ落ちるように消えていき、彼らを訪れる客が、仕える使用人が、友人が、親類が、瞬く間に姿を消していった。いつからか心を病んでいた女は夫の他界を境に完全に壊れてしまった。木枯らしの吹く寒空の下、女は変わり果てたカーペットの上で今日も夢を見る。