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An empty angel─存在の意味─

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真っ新な魂は、黄金で縁取られた純白だ。
柔らかな羽毛こそが似合いそうな純真さは、一種の武器かもしれない。男は、今更なことを今更に考える。
かつて、男が死の瀬戸際から拾い上げて側へ置いた小さな仔猫。“神様”から見捨てられ、心を殺して全てを閉ざした。その様が悲しいと、差し伸べた手に縋った少女の稚さは今も記憶に焼き付いている。
けれど、幼子はいつまでも幼子のままではない。気がつけば牙と爪を研ぎ上げていた仔猫。
全ての記憶の鍵は閉ざされたまま、銃を握る手に迷いはない。
それが何故なのか、真の迷い子は知らない。

「貴方が私を拾ったから、私は貴方を守るために生きるの。それが幸せなの」

音にしては紡がれない言葉は、心に強く響き渡る。聞かないふりをして、男は困惑に瞳を逸らした。
長らく争い続けた二つの国。中枢に食い込んで腐った部分を切り離そうとする兄に賛同した彼は、戦場を生きる場所に選んだ。
腐っているのは自国と敵国、どちらもも同じだ。そう悟ったのは、白兵部隊の一員として敵の戦艦に切り込んだ時。まだ十にもならない少女が敵の広告塔と使われ、使い捨てられる場面に居合わせたからだった。
父親の命ずるまま、生まれ持ってしまった非凡な頭脳を戦術兵器として使用されてきた少女は、敵軍に孤立した戦艦の中に見捨てられ、本来その身を守るべき兵士達に乱暴されようとしていた。
兵士達を殺し、少女を保護するに迷いはなかった。
見捨てられた自分に価値がないと、心を殺しかけた彼女に、自分の側で生きろと新しい名と所属場所を与えた。それも誤りではないと信じている。
黄金の少女の望むまま、自由なままに生きろと言った。そう願った。
虚ろに空を見つめた金色の瞳に生気が宿ることが、確かに自分の望みだった。
それなのに。
「……自由意志よ」
戦場を生きる男の傍らで、汚濁すら背負って少女は微笑う。

「貴方は私に私をくれたの。だから私は、貴方に私を返すだけ。ただそれだけ」

要らないと言えれば良かった。嘘でも突き放すべきだった。
男は、何度も繰り返し思う。
無理だと分かっている。
少女の傷つく様を見たくない。一度は捨てられ、精神的負荷の故に記憶すら摩耗させたのだ。同じようなことは出来ない。
それでも、もしかしたら。自分が引きずり込まなければ、もっと普通の少女のように笑えたのではないか、と。戦場でつかの間見る白昼夢のように、繰り返し思う。
決して、言葉にはしないけれど。
男が拾った、小さな少女。“神様”に見捨てられ、自分の存在の意味を見失い、そうして死にかけていた敵方の守護天使。
何も知らないまま、戦場の水しか飲まず、飲めずに生きてきてしまった仔猫。
彼女の背にある真白の翼が強く羽ばたく様を見たかった。
そのために差し伸べた手だった。
そして今、男の望み通り、翼は羽ばたく。
男の側で。何よりもすぐ側で。
それは、血塗られた砲が吠え、人が死ぬ戦場でしかない。それでも。誰よりも強く真っ直ぐに羽ばたいて、黄金の瞳は輝きを増した。

それは、男の何よりの希望で絶望。

男はかつて天使を拾った。
それは男の守護天使。
誰よりも空虚に生きて生き抜いていた、かつての黄金天使。
今はただ、幸せな幸せな笑みを浮かべる黄金の少女。

男の拾った天使は、永遠に男の側で生きる。

「それが私の選択なの」
作品名:An empty angel─存在の意味─ 作家名:Bael