ごはんをたべる
「おやつもあんぞ」
「なに」
「野菜スティック」
「またかよ!」
「うめーって食ってただろうがよ」
「おやつって言わねーのそれは」
飯盛って、渡された割り箸を割って両手を合わせる。少しずれた「いただきます」。
炊き立て特有の口の中で滑るような水分に嬉しくなった。ちょっとだけ芯が残ったような米が甘くて、日本人でよかった、なんて。じわりと口の中に湧いたつばを飲み込んで生姜焼きに箸をつける。完全に胃袋が沢柳に握られてる。
「どーよ」
「……うめーよ、普通に」
「だろ」
どや顔の沢柳は口元だけでにやりと笑って、生姜焼きのたれの染み込んだキャベツを持ち上げる。掌についた水気の多いたれを舐め取って「まあまあだな」とまた笑う。沢柳の笑顔はいちいち悪どい顔をしてるように思う、ちゃんと笑えば彼女のひとりやふたり、のイケメンなのに。
圧倒的な他称・ドS、腹黒。人の嫌がる顔を見てにたりと笑う整った顔はもはや悪魔だ。元松(俺)と幡野どっちが早く掘られるか、ってなんだよ、幡野に決まってんだろーが。それ以前にまず、アホ私大の一サークルで掘る掘られるって話題が出ること自体おかしーし。
「なあ元松」
「なん、」
「来週飲むじゃん、春原とか御橋とか芳沢とか大槻さんとか雪乃さんとかほら、あのメンツ」
「んー、」
「なに食いたい?つまみ適当にいくつか作るかと思ってんだけど。決められねーからお前に任す」
「んー」
「あのなあ!」
沢柳が俺の茶碗を奪い取ってついでに鼻をつまむ。痛い。
「俺今話してたよな?ついでに言えばお前に質問したよな?」
「あーはいはいすんませんってば」
「そりゃ飯食ってるときしゃべんねーのは育ちがよくて結構ですけど、家主さまの声も耳に入らないってのはどういうことですかね?」
「はいはいだからごめんてば!なに?来週の飲みの献立?」
「そ」
俺の茶碗を元の場所に置いて乗り出した腰を落ち着ける。下の方に沈んだ味噌を溶かすようにお椀の中で箸を動かす。全体的に白い内装の中で見るからか沢柳は白いよな、とふと思う。赤いお椀を持つ指とか。サークルの活動上割と外にいるはずなのに、とか。
そんなことを考えながら本能のままに飯食ってたら茶碗の中の米が消えていた。
「んー、つまみだろ?野菜スティックでいいんじゃないの。あとはまあ適当に買い出しでも行くっしょ。俺とか春原とかは遅れてくるだろーけど、大槻さんとか相当早く来そうじゃん」
「あー、そっか、なるほど。大槻さん早く来そー」
「そうそう。あ、米、まだある」
「へいへい。人んちで家主より米食う元松くんの根性に乾杯」
「すんません」
「冗談だよ。茶碗」
茶碗を渡すとちょうどいい量の米が盛られて戻ってくる。三分の一残った生姜焼きと、殻だけ外したしじみの味噌汁。タッパーの隅に残ったしんなりした白菜を葉っぱ。二杯目でそれらを流し込んで後ろに手をつく。ほどなくして沢柳も箸を置いた。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした。流し持ってくから重ねて」
「うい。俺洗うよ」
「元からそのつもり」
「……そうですか」
しれっと言い放つ沢柳は膝立ちで食器を重ねる。妙に所帯じみた行動と普段の沢柳が結びつかなくていつもなんだか微妙な気持ちになる。
あと、大部分の人間はこういうとこを知らないんだな、とか。
「飯作ってやったんだから当然。どうすんの、今日帰んの?」
「ん。明日1限だし」
「了解」
基本的には毎週水曜。
俺と沢柳の一緒にごはん。
本日の献立、豚肉の生姜焼き。キャベツの千切り。しじみの味噌汁。野菜スティック。炊き立てごはん。