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廻る夏と彼女とバスタブ

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ジョボジョボと流れ落ちる水を、黙って見ていた。



(廻る夏と彼女とバスタブ)



手入れのされていない植木と雑草とが敷地を狭めている庭は、こちら側からは向こうがよく見える代わりに、向こうからこちら側を見ることは難しい。そんな庭の真ん中に、どこから拾ってきたのか古びた猫足バスタブを置いてホースを突っ込み、彼女は鼻歌交じりに水を溜めていた。時折吹く生暖かい風に、彼女のかぶった麦わら帽子と肩で切りそろえられた黒髪が揺れる。

「ねえ、ちょっとこれ持っててよ」

振り返って僕に言った彼女は、二カッと歯を見せて笑った。有無を言わせずホースを僕の手に押し付けると、サンダルを脱いで縁側に上がり、部屋の奥へと消えた。握らされたホースは、だらしなく水を垂れ流し続けていた。バスタブの半分程に水が溜まった頃、彼女は湯気を吹く大きなやかんを携えて満面の笑みで戻ってきた。

「おまたせ」

そう一言だけ言って、彼女はバスタブにやかんの中身をぶちまけた。僕の持つホースから流れ落ちる水と、彼女の持つやかんから流れ落ちる水とが心地よいメロディーを奏でる。やかんを持つ彼女の手元から、ムワッとした熱気が上がるが、それらは水に紛れてすぐに消えて行った。やかんの中身を全てバスタブに移し終えた彼女は、ビーチサンダルをキュッキュと鳴らしてホースをたどっていき、水道の蛇口をキュッと閉めた。途端に僕の持つホースから流れていた水は勢いをなくし、ゴポッと名残惜しむように最後の一滴を吐いて止まった。

「ありがと。もう良いよ」

僕からホースを受け取り、彼女はおもむろにそれを地面に投げ捨てた。チャポン、音を立てて片腕をぬるま湯に突っ込んだ彼女は一人頷くと、おもむろにTシャツを脱ぎ始めた。視線を外すのも忘れ、彼女のしなやかな肢体に見惚れる。ジーンズに手を掛けた彼女は、僕の視線に気が付くと悪戯を思いついた子供のような笑みで「変態」とだけ言ってジーンズを縁側に脱ぎ捨てた。彼女は服の下に南国を彷彿とさせるビキニを着ていた。なんだか鼻の奥が熱いと思ったら、中途半端に開けた口に鉄の味を感じ、そこで初めて鼻血を出していたということに気が付いた。慌てて鼻を押さえる僕を見て、彼女はケラケラと笑う。

「別に、見たいなら脱いでもいいんだけどさ」

ビキニの紐に指をひっかけ、バスタブから身を乗り出して挑発的な表情を向けてくる彼女に、僕はブンブンと首を横に振った。冗談ではない。そんなものを見せられたら今度こそ僕の鼻の粘膜及び理性は決壊するだろう。しかし僕とて青少年。そのように挑発的な行動をされたらイケナイ妄想をしてしまうのも仕方がないというものだ。グルグルと頭の中を駆け巡る妄想にいっぱいいっぱいの僕を尻目に、彼女はバスタブを軋ますように目いっぱい伸びをして空を仰ぎ、言った。

「嗚呼、夏だねえ」


彼女の見上げる空にはいっぱいの入道雲。

夏はまだ、終わる気配を見せないのだ。
作品名:廻る夏と彼女とバスタブ 作家名:ripo