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No.16バスシェルター(仮) 1-1

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その二年のあいだ、僕は日本を離れて暮らしていた。


終わるはずもないと思っていた大学生活も残り一年となり、モラトリアム生活の最後を日本以外の国で過ごしてみたかったからだ。

場所は、日本以外ならばどこでも良かった。たとえそれがチュニジアでも、ハンガリーでも、サモアであっても僕は満足して日本を発っただろう。
それがたまたまタイだっただけで、特に理由があったわけではない。


タイでは好き放題やった。
日本で過ごす同級生たちが、多量の酒とタバコと睡眠不足と栄養失調でぼろぼろになったその体で就職活動と卒業論文に追われている間、僕はタイで新しい友人とかわいい日本人の彼女を作り、安くてうまい飯を食い、酒を飲み、女を買い、クラブで踊り、毎日八時間ぐっすりと眠った。

日中は当時はじまったばかりの、オンライン株式取引をして過ごした。インターネットと文字を判読できるモニターさえあれば、どこであっても機関投資家と近い環境で取引が出来た。
タイで生活している間僕は毎朝五時に起き、アパートメントの裏に生い茂る木立の中を一時間きっかり散歩し、シャワーを浴びてコーヒーとタバコを片手に取引に臨んだ。
株式市場の昼休憩の間には近所の屋台で三十バーツの飯と二十バーツのビールを買い、午後はそれを飲みながら刻々と変動する電光掲示板を眺めた。

午後一時に取引を終えると、天気が良い日は街へと足を運び、雨の日は音楽を聴きながら本を読んだ。