月も朧に
佐吉は三太と共に、藤翁の部屋に連れて行かれた。
そこには藤翁だけでなく、藤五郎とお藤の姿もあった。
皆神妙な面持ちだった。
二人が座るなり、皆頭を下げ佐吉に謝った。
「さっきの無礼を許してほしい」
「いえ……」
「お前さんを傷つけるつもりはなかったんだ。でも、信じてほしい。二人を追い出す気は毛頭ない。
約束する」
ひたすら頭を下げる藤屋一門の頭に、佐吉と三太は困惑するばかり。
「は、はぁ……」
「だからこそ、今から大事な話をしたい」
「大事な話ですか?」
「この江戸の梨園の重大な秘密だ」
佐吉と三太は息をのんだ。
どんな重大な秘密なのか。
一言一句漏らさず聞こうと、身を乗り出した。
「永之助は、お前さんの嫁になる藤屋の一人娘、お永だ」