月も朧に
その夜、若者五人組は藤屋で藤五郎と共に食事をしていた。
日々の稽古の報告会であった。
「どうだ? どれが一番やりやすい?」
利蔵がまず答えた。
「日本駄右衛門です」
「そうか、貫禄が居るからこの中ではお前が適役かもな。利は?」
「鳶頭清次《とびがしらせいじ》(※3)です」
「は?」
「江戸っ子ですからね。一番やりやすいんですよ。そういえば、俺、一応は呉服屋の若旦那ですよ。若旦那が強請役って、地で弁天小僧(※4)じゃないですか。だから俺が弁天やっても面白みがない」
「そりゃそうやな。反論できんわ」
感心している佐吉に、期待のこもった眼差しを藤五郎は向けた。
「佐吉は?」
「南郷力丸です」
「そうか。できそうか?」
「役貰えるよう、頑張ります」
藤五郎は満足そうにうなずいた。
「永之助と弘次郎はやはり弁天小僧か?」
「はい」
二人は仲良く声を揃えたが、互いの間には負ける物かという気の張り合いが見て取れた。
「皆、精一杯がんばりなさい。さて、明日も稽古だ、そろそろお開きにしよう」
帰り道、又蔵、利蔵、弘次郎の三人の話題に上ったのは藤屋の二人だった。
「仲いいよな。永ちゃんと佐吉」
「そりゃ、吉ちゃんは藤屋さんの婿候補だ。……それに、あの鳴海屋の次男より絶対に佐吉のほうがいい」
「そうです! お永姉さんは絶対佐吉兄さんと一緒になるべきです! 私は、あの人、嫌いです……」
「皆の意見は一つ。佐吉を応援しよう。な?」
「おう。当たり前よ。俺みたいに強固な後ろ盾と可愛い嫁は持った方がいい」
「早く帰らないとその可愛い嫁さんが鬼になるんじゃないか?」
「やばい! じゃあ、また!」
「おう!」
「お疲れさまでした!」
三人は別れた。
初日まで、後少し……