彼女×彼女
彼女の可愛い頬が膨らんだまま萎まない。
言葉を発すれば、せっかく膨れた顔が戻ってしまう。
膨れた頬は、薄くルージュをひいた唇を尖らす。
その唇に触れる。
もちろん、私の唇でだ。
一瞬の隙。一瞬の驚きの顔が、私を好きと言っている。
「そんな妬きもちは、要らないでしょ。するだけ損だよ」
私よりも背は高いのに彼女の視線が私を見上げる。
私が出した昼食をそっぽ向いたまま食べ終えた彼女はなかなか席から立とうとしない。
そのかわり、私に席に着けとその瞳が促している。
片付け途中だったが、私は食器を流しに一旦置くと、彼女の横に椅子を引き摺り座った。
「はい。これでいい?」
彼女が、頷いたのを確認して膝をこちらに向けた。
向かいあった途端。彼女の瞳は潤み、その流れは止める間も与えなかった。
「あーあー」
私は、眉の間をしかめ、ティッシュペーパーに手を伸ばす。
二回引き抜き、彼女の目元に当てる。柔らかなティッシュペーパーが彼女の涙を吸う。
「あーあー。勿体無い。こんな紙なんかに吸わせちゃった。今度は私がね……」
「仲良くしてるの見たくない」
「何も仲良くしているわけじゃないよ。仕事で必要なとこだけは話さないと進まない」
「私のほう見て、ふたりで笑った」
「んー。それはー髪の毛切ったでしょ。彼が褒めたから私も嬉しかっただけ」
「あいつの事、彼って言うんだ。いいの?」
「ほかにどう言えばいい?名前にしかも敬称つけて説明したほうがいいならそうするよ」
下を向く彼女は、まつげがまだ濡れて可愛い。
さっきの涙で頬のファンデーションが少しよれてしまった。
私の指先で伸ばすと彼女の頬が仄かに微笑んだ。
「ごめん。気になったなら謝っておくね。珈琲入れてあげようか?」
立ち上がろうとする私の腕に彼女の手が絡む。
「ん?まだ?どうした?」
「それだけ?」
「そう、それだけ。はい、おしまい」
掌で、彼女の頬に軽く二度触れると、お揃いのマグカップに珈琲を淹れた。
「どうぞ」
「……今度は、インスタントじゃないの淹れてあげるね」
彼女に笑顔が戻った。私も微笑み返す。
「ありがと!インスタントでごめんね」
彼女と私。
手を繋ぐ。たまには、ふざけてキスもする。
だけど、身体を寄せ合うことはしない。同性愛者ではないのだから。
学生の先輩後輩の百合系でもない。もう大人なのだから。
心が惹き合う。
誰よりも気持ちのわかった存在同士。
貼り合わさったものをふたつにわけたように同じものを分かち合った存在。
ときに、価値観や意見の違いがあっても、白と黒。陰と陽。
いつだって大極図のように向かい合い、交わり、溶け込んでいられる存在。
そういう間柄の付き合いがあってもいいんじゃないか。
彼女に会ってそう思うこの頃。
― 了 ―