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城沢瑠璃子
城沢瑠璃子
novelistID. 41389
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ドア

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とても短い話なので恐縮なのですが。
 父から聞いた話です。
 父は学生の頃は物凄く神経質な人だったのだそうです。例えば外へと外出して玄関先で靴を脱ぐと、その靴がちゃんと揃っているかどうかが気になってしまって何度も何度も直してしまうと言った様な事が日常茶飯事だったのだそうです。
 そんな父がある日、自分の住むアパートから友人のアパートへと行こうとした時の事です。
 外へと出て扉に鍵をかけた時だったそうです。
 鍵が果たしてちゃんとかかっているかどうかが気になってしまったのだそうです。
 そうするともういけません。
 何度も何度もガチャガチャガチャガチャと扉に鍵がかかっているかどうかを確認しだしてしまったのです。
 どう見てもちゃんと鍵はかかっているのです。だけどもしかすると自分が認識していないだけで実は開いているのかもしれない。そんな酷い幻想ともつかぬ様な物にとり憑かれてしまって、十分位そうやってガチャガチャやっていたそうです。
 そうしてもう自分も疲れて来てしまってもう良いかなと思ってドアノブから手を放した時でした。
 ドン!ドンドンドンドンドンドンドンドン!
 扉の内側からドアを乱暴に叩く音がしたのです。
 それは直ぐに止んだのですが、父は真っ青になって慌てて友人の家に転がり込むと友人が迷惑顔なのにも頓着せずに、その日は友人のアパートに厄介になったのだそうです。
 そうして次の日に父は友人を連れて恐る恐る自分の部屋へと戻ったのだそうですが、其処には当然の事ながら誰も居ませんでしたし、居た形跡も無かったのだそうです。
 その事があってから父はドアノブだけは神経質に確かめる事を止めたのだそうです。
作品名:ドア 作家名:城沢瑠璃子