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城沢瑠璃子
城沢瑠璃子
novelistID. 41389
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チップイン

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私の兄は中学、高校とゴルフ部に入っていたのですが、そんな兄から聞いた話です。
 高校二年生の頃、兄は部活の夏合宿で朝早くからコースで練習をしていたそうです。
「今でも組の構成は覚えてるけどさ、僕と一年生が二人の計三人だった。一番最初の組だったよ」
 兄が一年生二人の面倒を見る形でコースは進んで行ったそうですが、これが中々骨の折れる仕事だったのだそうです。
「ゴルフって言うと大抵の人はカートに乗ったお気楽なゴルフを想像しがちなんだけど、学生ゴルフって全然違うんだよね。アイアンとか飲み物、それにボールとかが入ったキャディバックは当然自分で担いで行くし、目土って言ってさ、自分がボールを打つじゃんか、そうすると芝生を削っちゃうんだよね。その削った芝生ってのは一応修復しなきゃいけないんだけど、削った芝生を全部かき集められないから、土をその削った跡に入れるんだよ。その為の土を入れる目土袋ってのがあってさ、それも自分で持って行かなきゃいけない。しかも歩いてはいけないんだよな。そういう十キロ近い荷物を担いで持って、それで全力で走らなきゃいけないんだよ。多分下手な部活動よりはハードだと思う」
 しかもその時兄は走りながら後輩二人の面倒も一人で見なければならなかった訳ですから、ゴルフをやった事の無い私でもその大変さは何となく伝わって来ました。
 それで、前半の五ホール目のグリーン上での事でした。そのグリーンは高台になっていて下からはどの様なグリーンの状態になっているのかは中々見極められない様な場所だったそうです。
 毎回の事ながら兄が最初にグリーンに球をオンさせたので、兄曰くグリーンに乗ったかどうかは見なくても熟達して来れば大体音で判るのだそうです、他の後輩のボールが何処に飛んで行くかを見極める必要もあって、兄は先にグリーンに上ったそうです。
 すると、兄の球はカップの真横ギリギリにオンしていました。
「やった、と思ったね。もう入ったのも同然だからさ。そのラウンドでは初めてのバーディーだと思ったんだよ。それでいそいそとカップの近くに行ったんだな」
 歩いてカップへ近付くと、ボールは本当に真横についていました。
 兄は内心ほくそ笑みながら、何気なくカップに刺さっている旗を持ちつつカップの中を見たそうです。
「心臓が止まりそうになったってのはあの事だよな」
 カップの中には男の顔があったそうです。
 その男の顔は目玉をギョロギョロさせながら兄を睨んだそうです。
「咄嗟に悲鳴を上げそうになったんだがな……」
 そこで下の方から後輩の、打ちます!という声が聞こえて来ました。
「それでハッとして後輩達の居る方を見たんだよ」
 すると丁度後輩の打った球が真っ直ぐ此方へ飛んで来るのが見えたので兄は慌てて避けたそうです。
 トン、という音がして球はグリーンの上に乗りました。しかもよっぽど乗った位置が良かったのでしょう、玉はコロコロとカップの方へと吸い寄せられていったのです。
「うわぁ、と思ったね。普通ならお、入れ入れって思うんだけど、その時にはカップに男の顔があるって判ってるから入ったら厭だなぁとしか考えなかったんだよ」
 ですがそんな兄の希望とも思いともつかぬ物を嘲笑うかの様に球はそのままストンとカップの中に入ってしまったそうです。
 途端に、ゲフッという声とも何ともつかない音がして、その後にカコンという玉がカップの中に入った時に出す音が聞こえたそうです。
「恐る恐るだけどカップの中を確認したんだよ」
 すると、カップには後輩がチップインしたボールしか無かったそうです。
「男の顔なんて、何処にも無かったんだよ」
 そこで兄は後輩に向ってナイスチップイン!と声をかけたそうですが、声が震えているのが自分でも判ったそうです。
「あれから何度も同じコースは合宿で回ったんだけど、あんな経験は一度きりだったな……」
 だからこそ気味が悪いんだけど、兄はそう言って話を締めくくりました。
作品名:チップイン 作家名:城沢瑠璃子