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城沢瑠璃子
城沢瑠璃子
novelistID. 41389
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喫茶店

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二年程前の話。
 当時私は、京都の四条近くの喫茶店でアルバイトをしていた。
 交通量の多い車道の横にあるからか、夜中でもかなり車の音がうるさい場所に店はあった。
 私の仕事は所謂ウェイトレスで、夕方から閉店までを主に仕事時間としていた。
 ある日の事、店の閉店時間ギリギリにカランと音がして誰かが店に入って来た。
「いらっしゃいませ……」
 私はそう言いながら何気なく入口の扉を見てギョッとした。
 其処には、ボロボロの服を着た小学生の男の子が立っていたのだ。
 目をカッと見開いてジッと店内を見つめている。
 咄嗟に時計を見ると既に午後11時を回っている。
 こんな時間に小学生?
 肌に薄ら寒い物を感じながら、それでも客商売なので声を掛けざるをえない。
「あの、席は空いてますからお好きな所へ……」
 本当なら直ぐに親御さんの連絡先でも聞いて電話をすれば良かったのだろうが、その時にはそんな事は思いつかなかった。
 男の子は私の声を聞いているのかいないのか、ジッと私の方を見ている。
 私と男の子目が合った時だった。
 男の子がパッと店の外へと飛び出して行ったのだ。
 この場合、別に外へと出たのだから追いかける義理は無かったのだが、私は何故か追いかけなければならない気がして待って、と言いながら店の外へと出ようとした。
 途端にグイッと後ろから物凄い勢いで片を掴まれた。
「おい、アンタ何してるんだよ!」
 後ろを向くとちょっと額の広い会社員が真っ青な顔をして私を見つめていた。 
 ハッとして前を見ると、物凄く近くをトラックが過ぎ去って行く最中だった。
 気付いたら、車の通り過ぎる車道の目と鼻の先にいた。
「もう少しで死ぬとこだったんだぞ!」
 横で会社員が喚き、後ろからわらわらと店の人間が出て来る気配がしても、私はトラックが通り過ぎるのを見つめていた。
 何か判らなかったが、見つめていなければならない気がしたのだ。
 そうしてトラックが過ぎ去った瞬間だった。
 目の前にさっきの男の子が立っていて、ニタリと笑っていたのだ。
 その笑顔にはあからさまな敵意が感じられた。
 狙われてる……。
 そう思った瞬間に私の意識は飛んでしまった。
                     ・
 その翌日、私は店を辞めた。理由は言わなかった。言える訳が無かった。
 今でもその店の近くには寄り付かない事にしている。
作品名:喫茶店 作家名:城沢瑠璃子