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学生街の喫茶店

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父と娘、そのまた娘はまだ僅か10ヶ月。親子三代でやって来た。

その街の路地裏には、学園都市が出来た頃からだろうお店が肩を寄せて立ち並んでいた。

二階があることなど今の時代では見落としてしまうほどの低い成り。更に地下があるお店もあり、ありの巣の如く見た目より意外に入り組んでいる。

白髪の老夫婦が経営する人気の珈琲店はその老夫婦の死後は藻抜けとなったままだ。

目指す角のバーは夜専業なのかまだ営業して無かった。その向かい、やはり昔通ってた喫茶店に入った。乳児が居るので奥の狭い席を選んだ。店内には常連らしき男性が独り、新聞を読んでいる。

外は余りに暑かったので、冷たいものを頼む。

娘はクリームソーダ、自分はコーヒーフロート。こんなメニューがまだ現役だ。多少高くてもその希少価値に逆に味わいたい。

暫くするとお約束の背高のグラスにアイスクリームが浮きストローがゆっくりと回る。大凡不自然なライトグリーンな液体はソーダの細かい泡が立ち上る。

娘はすかさずスプーンでアイスクリームをすくう。繰り返し口に運びながら「美味しい」を連呼してる。暫くすると僕らはこの空間にすっかり慣れて来て、良く掃除された木製のタイルに孫を放った。


孫は得意のハイハイをしながらママさんに直行。ママさんの椅子につかまり立ちをして二人は暫し向かい会う。そして挨拶をした孫はまた高回転のハイハイで戻って来た。

すっかりこの場に打ち解けて僕はママさんに話を始めた。

「僕は高校の頃この店に一時期たむろして、音校の娘を誘って来てました。昔は中央に座り心地の良いソファーが在りましたね。」

「嗚呼、あの生意気な娘達ね。みんなお洒落だったわね。」

「よく思い出してくれましたね。」

なんと35年も前のことだ。ママさんはずっとこの喫茶店を営んで来たのだ。

午後のひととき、娘と孫と三代で訪れた喫茶店で悠久とも思えるひと時を味わっていた。


             完
作品名:学生街の喫茶店 作家名:淡水