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城沢瑠璃子
城沢瑠璃子
novelistID. 41389
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後輩

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「青い女の幽霊が現れるんだそうです」
 そう私にお話をしてくれたのは、高校時代の後輩でした。
 本当にちょっとした偶々が重なった上での出会いだったのです。
 私が行きつけのバーの前で今日は入ろうかそれともまた今度にしようかと悩んでいる時に、彼女が私の横を通り過ぎようとしたのでした。
 最初に気付いたのは彼女の方でした。
「ああ、先輩!」
 そう言って私に微笑む女性に残念ながら私は少しの間何の記憶も呼び覚ます事が出来なかったのです。
 しかし記憶とはまるで霧の中からひょっこりと姿を現す魔性の物の様で、気付けば後輩をその場で抱きしめていたのです。
「久しぶりだねぇ、久美ちゃん!」
 彼女の名前は久美と言います。高校生の頃同じ百人一首の部活に入っていました。腕前は私と同レベル、いえ、私よりも少しは勝っていました。
「大学に入っても百人一首はやってるの?」
 バーに入って店主にお酒を注文し終えてから私は彼女にそう尋ねました。
 しかし彼女は悲しげに首を振って、
「いえ、大学に入ってからはやってません……。本当はやりたかったんですがサークル自体が無くて……」
「そうなの……それは残念ね……」
 私はそう曖昧に答えておきました。
 私の入った大学に偶々百人一首のサークルがあった事もあって、私は大学を卒業した今でも時々大学の時の仲間を募って大会の遊びごとの様な事をしていましたから、後輩の本当に残念そうな顔にどんな言葉をかけたら良いのか判らなかったのです。
 店長に注文したお酒が運ばれて来てからは、それをチビチビと飲みながら適当な話をしていました。余り百人一首の話にならないようにしたのは私なりの配慮です。
 きっかけはどんな事だったかは忘れました。
 しかし、気付くと私達の話題は怪談になっていました。
 私が怪談が好きで趣味で色々な人達に話を聞くという悪い癖があるからなのでしょう。何の気も無く、私は後輩に尋ねていたのです。何か怖い話は無いか、と。
 その時に後輩が話をしてくれたのでした。
 それは、こんな話です。
                   ・
 先輩、石屋橋ってご存知ですか?
 ええ、そうです。
 あのK公園の近くにある小さな橋です。
 あそこに最近、青い女の幽霊が現れるんだそうです。
 ホントかどうかは判りません。私も実際に会った訳では無いですし。
 でも見たって人は結構いるみたいです。
 青い服を着た青白い顔の女だそうなんですよ。
 それが石屋橋を夜中に歩いたりすると出るそうなんです。
 後ろから追いかけられたって人も居ますし、前から四つん這いで物凄い勢いで迫って来られたって人もいます。
 見間違いや何かでは無いのでしょう。
 兎に角、あの石屋橋には多分本当に女性の幽霊が出るんです。青色のね。
 恨みでもあるんでしょうかね。
 自殺した人の霊なのかも知れませんし、もしかすると不慮の事故、場合によっては殺されて捨てられているのかも知れませんよね。
 勿論、憶測ですが。
 でも、聞いた人が皆襲われたって言いますからきっと恨みがあって、それを誰かに伝えたくて現れるんだと思うんです。
 本当かどうかは判りませんけど……。
                  ・
 気付いた時には、朝でした。
「お客さん、お客さん!」
 そう言って店長に起こされて漸く私は気が付きました。
 横を見ると後輩はもういませんでした。
「お客さん、昨日は大丈夫でしたか?」
 ボウッとした頭の私に店長が何時に無く心配そうな顔をして尋ねて来ました。
「え、大丈夫って何がです?」
「いえ、昨日お独りで来られたのにまるでお連れの方がいる様に首を横にしてウンウン言っておられると思ったら急に欠伸を始めてそのまま眠ってしまった物ですから……」
「ウソ……」
 私はそう呟いていましたが、確かに記憶の中では後輩が飲み物を頼んだ覚えがありませんでした。
 店長に今何時かと尋ねると朝の4時頃との事だったので私は一抹の薄気味の悪さを感じたのですが、お会計を済ませて取り敢えず帰る事にしたのでした。
「有難う御座いました……」
 私はそう言って扉を開けました。
 目の前に、青いコートを着た後輩の姿が飛び込んで来ました。
 後輩は私を見るとニヤッと笑ってそのまま物凄い勢いで後も見ずに駆け出して行ってしまいました。
 悲鳴も上げられない間の出来事でした。
 私は気味悪さの為にそのまま全速力で家へと帰っていました。
                    ・
 あれが何だったのかは今でも判りません。
 ですが、あれから十年以上経っても石屋橋の下から人の死体が見つかったという話は聞きません。
作品名:後輩 作家名:城沢瑠璃子