二人の王女(5)
前回までのあらすじ。
ひょんないきさつから、アズベリー国の王女たちと旅を共にすることになったあすか。
精霊のいる森を抜け、崖の麓で夜を明かすことになった一行だったが、そこに敵国であるサガエル国の騎士たちがやってくる。
サガエル国の騎士たちが気付かないうちに、一行は先を行こうとするが…
5
存在に意味を与えられなかった俗物たちが、目を醒ますとき
自由な人間の身体を求めて貪り彷徨い歩く
未知なる毒なもはや世界を覆い、
世界を創りし神への反逆を始める
生態の歯車が狂うとき、美しい夢は冷たく覚醒する…
森へ数歩、歩を進めたときであった。背後から、あの男性たちの叫び声が聞こえてきた。
「わぁああああ!」
声と共に、何やら得体の知れない唸り声のようなものが聞こえてくる。前を歩いていたマルグリットら三人も、咄嗟に身を翻し、剣を手にその声のする方へ構えた。
あの男性らのものであろう馬の悲痛な声が聞こえてくる。マルグリットは躊躇しなかった。
「行くぞ!」
「だが…」
アークの目には、迷いが浮かんでいた。
「放ってはおけぬ!」
マルグリットは馬に股がり、走り出した。アークも、「くそっ」とすぐにその後ろを追い掛ける。シェハが、あすかの手を引き素早く馬に乗せると、自身に掴まるように指示し、後を追って走り始めた。
あすかには何が起こったのかはわからなかったが、その惨状はすぐに目の前に現われた。
崖の裏に回ると、そこには思わず目を塞ぎたくなるような光景が広がっていた。
二メートルはあると思われる異様に背の丈の高い、全身が黒一色で覆われた手の長い生き物が、腹の辺りに大きく裂けた口に、倒れた馬の身体を引き千切って貪っている。その生き物は一匹ではなかった。二頭の馬に貪りつくように三匹おり、他にも三匹、マルグリットらと対峙するようにして立っていた。
声の主だったらしい二人の騎士らしい身なりをした男性らは、恐怖におののいている様子ながらも、剣を手に戦う姿勢を取っている。三匹の不気味な生き物は、裂けた口からよだれを垂らし、獲物を狙っていた。
その大きな裂けた口から、機械仕掛けのような声が聞こえてきた。
「ニン…ゲン…」
「ニン…ゲン…クイタイ…」
ひょんないきさつから、アズベリー国の王女たちと旅を共にすることになったあすか。
精霊のいる森を抜け、崖の麓で夜を明かすことになった一行だったが、そこに敵国であるサガエル国の騎士たちがやってくる。
サガエル国の騎士たちが気付かないうちに、一行は先を行こうとするが…
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存在に意味を与えられなかった俗物たちが、目を醒ますとき
自由な人間の身体を求めて貪り彷徨い歩く
未知なる毒なもはや世界を覆い、
世界を創りし神への反逆を始める
生態の歯車が狂うとき、美しい夢は冷たく覚醒する…
森へ数歩、歩を進めたときであった。背後から、あの男性たちの叫び声が聞こえてきた。
「わぁああああ!」
声と共に、何やら得体の知れない唸り声のようなものが聞こえてくる。前を歩いていたマルグリットら三人も、咄嗟に身を翻し、剣を手にその声のする方へ構えた。
あの男性らのものであろう馬の悲痛な声が聞こえてくる。マルグリットは躊躇しなかった。
「行くぞ!」
「だが…」
アークの目には、迷いが浮かんでいた。
「放ってはおけぬ!」
マルグリットは馬に股がり、走り出した。アークも、「くそっ」とすぐにその後ろを追い掛ける。シェハが、あすかの手を引き素早く馬に乗せると、自身に掴まるように指示し、後を追って走り始めた。
あすかには何が起こったのかはわからなかったが、その惨状はすぐに目の前に現われた。
崖の裏に回ると、そこには思わず目を塞ぎたくなるような光景が広がっていた。
二メートルはあると思われる異様に背の丈の高い、全身が黒一色で覆われた手の長い生き物が、腹の辺りに大きく裂けた口に、倒れた馬の身体を引き千切って貪っている。その生き物は一匹ではなかった。二頭の馬に貪りつくように三匹おり、他にも三匹、マルグリットらと対峙するようにして立っていた。
声の主だったらしい二人の騎士らしい身なりをした男性らは、恐怖におののいている様子ながらも、剣を手に戦う姿勢を取っている。三匹の不気味な生き物は、裂けた口からよだれを垂らし、獲物を狙っていた。
その大きな裂けた口から、機械仕掛けのような声が聞こえてきた。
「ニン…ゲン…」
「ニン…ゲン…クイタイ…」