デュエル
本日の戦士を紹介しましょう。右手はナイフのキレール君。左手に控えしはフォークのササール君です。二人はこれまで何度となく決闘を繰り返してきましたが、いつも引き分けで勝敗が決まったことがありません。さて、本日はどうなるのでしょう。
Ａ氏の目前には血も滴りそうなレアに焼き上げられたステーキ。それもかなり霜降りの上等な牛肉の様です。あっ、たった今Ａ氏の口元から涎と思われる雫がタラ～っと流れました。
さあ、いよいよ戦いの幕が上がるようです。
おぉ！ 最初に動いたのはキレール君。先手必勝と考えたのか、いきなりその身体をステーキのど真ん中に突き立てました。予定外だったのか、Ａ氏がちょっと戸惑いの表情を見せる。そこへ遅れてはならじとササール君も負けずにジャンプしてステーキにダイビング！ これはＡ氏の目論見と一致したのか、彼はニヤッと笑いました。続けざまにササール君がステーキの上で何度もジャンプします。そして肉の上で踊るように動き回りますが肉は切れません。Ａ氏の表情にも少し苛立ちが見られる様です。キレール君は呆れた様にそれを眺めています。
ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ！
ササール君がもう無茶苦茶矢鱈滅多らに肉を突き刺しますが、その度に皿の上で肉が踊るだけで、Ａ氏の口に入るには程遠い様です。その様を情けなさそうに見つめるＡ氏。
そろそろササール君の体力も限界か！？ 動きが鈍くなりました。そして遂にササール君が疲れ果てたのか、ステーキに突き刺さったまま動かなくなりました。
すると、ここぞとばかりにキレール君が身体を前後にスライドさせて肉を切りにかかりました。慌てたササール君は疲れた身体に鞭打つようにゆっくりと腰を上げ、その頭をステーキから撤退させました。これにはＡ氏もびっくり！ 勢いの止まらぬキレール君は、そのまま肉を必死で切ろうとした為、鉄のステーキ皿が下敷きの板の上で踊ります！ ガタガタガタッ！
いやー、これは危ない！ 今にもステーキ皿がひっくり返りそうです。
Ａ氏が必死でキレール君の動きを止めにかかり、危うく肉がテーブルから吹っ飛ぶ寸前で彼の動きが停止しました。何とか肉は皿の上で無事です。しかしここで少し疲れたのか、Ａ氏がササール君とキレール君を皿の両側に離して置き、傍にあったお冷のカップに手を伸ばしました。どうやら一旦休憩を挟む様です。
Ａ氏がお冷のカップをテーブルに戻したのを機に、又々決戦が再開されました。
あっ、でも流石に思い通りに動かない両者に業を煮やしたのか、今度はＡ氏の動きにも慎重さが見られます。一刻も早くその肉を頬張りたいが為か、その手に両者をしっかと握り締めたＡ氏の顔には、今度こそ！ との意気込みが感じられます。
さぁ徐にササール君を動かして肉の中央左寄りにその頭を静めました。次にキレール君をそのすぐ横に滑り込ませスライド作業に移ります。
おぉー！ いよいよ肉に切れ目が少し入ってきました。Ａ氏の頬が弛んできた！ さあ切れるのか！？ あっ、漸く切れた模様です。Ａ氏が左手に力を込めササール君の頭に突き刺した肉を口元へ運ぶ。少し大きめな塊だがＡ氏の口の中に無事着床するのか！？
やった！ 入りました。やっと一口目のステーキがＡ氏の口の中に収まりました。思わずＡ氏が最高の表情を見せる。その塊はかなりＡ氏の腹を満足させたようです。そうなると次々と口に運びたくなるのが人情ってもの。Ａ氏はササール君とキレール君の暴走に十分注意を払いながらもせっせとその両手を器用に動かしております。
流石の二人も最初の戦いでかなりな体力を消耗したのか、それともＡ氏の力に逆らえないと観念したのか、大人しくＡ氏の動きに身を任せています。
Ａ氏はリズミカルな動きで肉を切り、それを頬張る。至福の表情で肉を食べ続けています。
あっ、ついに最後の一切れとなりました。
Ａ氏が名残惜しそうにその一切れを口に入れ、漸くキレール君とササール君を解放し両者を片側に寄せて仲良く並べて置きました。
『ごちそうさま』
Ａ氏の決闘終了の合図と共に、並べて置かれたキレール君とササール君は無念さを隠さず握手を交わし、本日の決闘が終了しました。残念なことに今回も勝敗は決まらず引き分けの模様です。
明日はスープパスタでの決闘が予定されていますが果たして結果は如何に。
唯一の観戦者である、テーブル上空に鎮座したスポットライトさん、どうもお疲れ様でした。本日の実況中継は、出番の無かったデザートスプーンのプン太でした。