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【黒バス】黒子の怪談

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「出して……」




 ※毎度御馴染みフィクションっス。現実にこんなこと有るわけないじゃないっスか。



 オレっスか?
 んーと。
 これは仕事先の先輩から聞いた話なんスけど……わりと有り勝ちな話なんで期待しないで聞いて欲しいっス。何処までホントの話かも分かんないっスからね。


 その人はモデル仲間じゃなくてオレらがよく載ってるあれとかそれとかの雑誌の編集の進行管理やってる人でまだ若いけどスッゲー仕事できて、なのに気さくな兄貴分、みたいな感じで……黒子っちみたいに旨く喋れないけど、とにかくオレも結構尊敬してる人なんスよ。
 ただ仕事がどうしてもいつ上がってくるか判らない原稿を夜通し待ったり、締め切り前に穴が空くことが判明したりだと缶詰にならざるを得なかったり、生活はどうしても不規則なるんスわ。
 深夜に帰れればイイ方、いや、家に帰れればイイ方ってくらい過酷な仕事なんスね、華やかな業界みたく思われてるかも知んねーっスけど。

 で、その人が春先くらいだったかな、いつもすんごい疲れ切ってて何日帰ってないのってくらいの顔色してた時期があったんス。
 でも別にやたら増刊やら写真集みたいなのが出たような月でもなかったし、そんなに忙しいかな? ってライターさんやカメラさんもちょっと首を捻ってるような感じだったんスよ。
 過労のあまり病気になってそれを押しても仕事に来てるんだったらヤバいなーと思ってオレ、それとなく訊いてみたんス。

 こんなこというのもどうかだけど所詮モデルなんてわりと取替が利くんスよ。だからこそオレたちは引き摺り下ろされないように節制して自己管理して誌面に載る為の自分を整え続けるしかないんスから。
 ……そういうとこ、スポーツと似てるかな。
 だけどその進行さんは居ないと仕事にスンゲー大きな穴が空いちゃうのは本人含めて誰もが認めてんのね。
 居なくても何とかなるかもしれないけど、居なかったら何とかしなくちゃいけないって……青峰っち、なんかもう飽きたみたいな顔すんの止めて?
 ちゃんとこっから本題入るから!

 で、訊いたわけっス。


 そしたらここんところ近所の子供が騒いで眠れなくてすっかり不眠症でさ、とかポツポツ話し出して。



 先輩んとこは完パケの時に一回遊びに行かせて貰ったんスけど、ギリギリ都内で駅前なんか、24時間スーパー兼昔のデパートみたいな? 簡単な服や身の回りの物、置いてる程度の店が三階建てでドーンとあってあとそれだけ、みたいな、下町と言えば聞こえがいいのかもしれないけど人が生活する最低限必要なものぐらいならありますっていうなんかもう生活感溢れる住宅街なんス。
 帰れるかどうか判らないからって借りてるアパートも三階建ての低層モルタルワンルーム。八畳あるかないかくらいの部屋に申し訳程度のキッチンとバスと……ああ、でもトイレはユニットじゃなく別だったかな。

 それでその騒いでる子供ってのは同じアパートの中らしいんスわ。

 先輩は三階の角部屋なんスけどどうも真下の部屋から聞こえてくるらしい。
 最初に気付いた時は朝帰りで寝てたから、まあ変な生活時間帯なオレも悪いかなって我慢してたけど、完パケして普通の時間に帰るようになってもやっぱり聞こえるんだって。

 しかもどうもよく聞いてみると子供が火が付いたように泣き叫ぶ声なんだって。

 赤ちゃんじゃなくてもう言葉はハッキリ喋るくらいの女の子の声で「ごめんなさい」とか「お母さん」とか「出して」とかとにかくずーっと金切り声上げて泣いてるんだって言うんスよ。
 ――お母さんやお父さんらしき人の声はしないのは確からしいっス。そうっス。先輩も緑間っちと同じこと考えたみたいでそこはよく耳を凝らしてたらしいんで……怒号がしたりとかはなかったそうです。
 でも最近多いじゃないスか。
 先輩いい人だから気になって何回か時間を変えて訪ねていったけどいつも留守なんだそうっス。……いや、居留守とかじゃなくてホントに人の気配全くしないんだって。泣き声もいつの間にか止んでるし。
 でも部屋に戻るとやっぱり足元から酷い叫び声がずっとしてるんスよ、たまんねーっスよね。


 で、ついに堪り兼ねて駅前の交番のお巡りさんにちょっと話してみたそうっス。
 したらお巡りさんが何度もアパートの部屋番号を確認して首を捻るんスって。

 その部屋、人が住んでないって言うんスよ。
 賃貸契約自体はされてるんスけど近所のファーストフードのチェーン店が店舗が狭くてバックヤードが充分に取れなかったらしくて、バイトの子達が着替えたり荷物置いたりするのに使ってるそうなんス。
 そのチェーン店のオーナーさんにもお願いして中見せてもらったそうスから確かっス。中は家具も何にもなくて作り付けのクロゼットにバイトの子の私服と荷物がある程度だったって。

 あ、でも出勤してきたバイトの子とたまたま話したらしいんスけど、その女子高生の子もここの部屋はなんか気持ち悪いって一人で着替えるのは怖いって言ってたらしいっスわ。



 結局、先輩は暫くして引っ越したそうっス。
 だって床から何かカリカリ爪で引っ掻くような音もするようになって完全にノイローゼになってたから……同じ職場の人の部屋に一時的に移って部屋探して無事っスよ。
 下の部屋を使ってたお店も店舗が入ってるビルの上階に部屋が空いたとかで引き払ったって聞いたっス。


 うーん、なんだったのかって言われても。

作品名:【黒バス】黒子の怪談 作家名:天野禊