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つだみつぐ
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novelistID. 35940
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ひとつだけやりのこしたこと

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これはわたしにとって小さな勝利なのか?
それとも、法務大臣のためらいによって引き延ばされた死刑執行なのか?

夜が更けると、抑えても抑えてもわき上がる疑念、それは、
さとみはずっと前から、わたしとのつきあいを負担に感じていたのじゃないのか。
すでにさとみのこころは、ケンちゃんと暮らすことに決まっているのじゃないのか。
ただ、かわいそうだから、はっきり言わないだけじゃないのか。
もしかしたら、すでに体さえ許しているのじゃないのか。

おいおい、何を考えているんだ。さとみは、いままで、嘘をついたことがないじゃないか。

でも、約束は破ったじゃないか。おいおい、と言いたいのはこっちだよ。恋したら、女は変わるだろ、よく知ってるだろ。現に、はっきり、もう別れる、って言ったじゃないか。おまえの泣き落としで猶予期間をおいただけだよ。

約束を破ったからって、嘘をつくとは限らないだろう。本気で彼女は俺を愛していたんだぞ。

おいおい、頭を冷やせよ。2度カラオケに行っただけの男に口説かれて有頂天になってポイと捨てちゃう恋の、どこがほんとうの恋だよ。どこがまっすぐな恋だよ。頭に血が上って現実が見えなくなっているのは、おまえの方だよ。

それ以上さとみの悪口を言うと許さない。たとえおまえが俺の一部でも。



頭の中はぐるぐる回ってばかりでどこにも行き着かない。


さとみは「4年後をキャンセルした時ね、わたしの心がなんか、ほっとしたの。」と言った。
淋しくなった、じゃないのか。ほっとしたのか。

なぜ?
わたしはさとみを縛っていたの?


だけど、不思議だ。
さとみの言葉を信じれば、ケンちゃんとの関係は深まっていない。
わたしとさとみが出会った時はほんの数日で熱烈なラブメールに変わっていた。
顔さえ見たことがないのに、さとみは1000kmを超えて飛んできて、わたしに抱かれようとしていた。


なぜだろう。
今度の恋は、もっとおだやかな恋なのか?

じゃあ、なぜ、これほど急いで、わたしから離れようとするのか。「わたし、自分が変なの。きっと、後悔する、ってわかっているの。」と言いながら。

わからないことが多すぎる。わたしの心は、乱れすぎている。

さとみが「迷っているの」といったあの日以来、毎日、夕方、ちょうど日が沈む頃になると、わたしは突然落ち込む。生きていたくなくなる。涙が出る。
わたしのうつ状態のおきまりの症状。
もう、慣れたけどね。でも、慣れても、つらさは減らない。そのたび、わたしはどうしようもなくなる。わたしはわたしの悲しみをもてあます。

保留は保留で、やっぱり、わたしを苦しめる。たんに、突然去られるよりまし、というだけなのか。