ひとつだけやりのこしたこと
映画「ノルウェーの森」二人で見た 2011年01月28日 22時11分
小説「ノルウェーの森」はずっと前からさとみに貸したままだ。小説というものをほとんど読んだことがないさとみは数ヶ月かかってようやく読み終えると、「ワタナベ君ってつださんにすごく似ているところがあるね。」と、とても本質的な感想を述べた。
そのあとで読んだ「国境の南太陽の西」と合わせて、わたしたちはしょっちゅうそれらの主人公のことを話題にした。愛することについて、人を傷付けることについて、セックスについて、「寄り添う」ことについて、取り戻しようもなく失われたものについて・・・・
「今度のとき、その映画、一緒に見ようよ。」と提案したのはさとみ。
「うん。わたしね、映画見るの5年ぶりぐらいだよ、だいいち、この30年間で映画館に入ったのは2回だけだよ。」とわたしが言うと、「わたし、30年、映画館に行ってないもん。」と、なんだか、張り合っているみたい。わたしの方は車で1時間以内には映画館が1軒もないのだからまあ、当然か。
佐世保駅近くのシネコンは一つのビルに小さな部屋が7つもある。土曜の午後だというのにこの部屋の客は10人に満たない。
わたしはここ、つださんはここね、とさとみが言うから、数えてみたら左右に11椅子が並んでさとみは6番目、つまりまん中、わたしはその隣。
「あ、先にまん中、とった!」
「ふふふふふ。」
そして見終わって直ちに、わたしたちはこの映画の欠点を次々にあげつらった。直子、あんな病的じゃないよね、ハツミさん、あんな冷たくないよね、みどりさん、もっと自然な感じじゃない?
何より、ワタナベ君、屈折しすぎ!!もっとまっすぐな人でしょ!!
セックスの描き方、完璧に間違っているよね!!!!!この監督、セックスがなんなのかわかってないよ!!!
思うに、わたしが原作を読んでいなかったら、あるいは、原作をすべての文学の中で一番愛していなかったら、この映画はそれなりに楽しめた、なかなかきれいな絵だし、「死者」について答えのでない問いを投げかけているし。
さんざん映画の悪口で盛り上がって、そしてさとみが言った。
「すごーく楽しかったね。」
うんっ!!!!!!!
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ