庶務の僕にできること
プロローグ
「新庶務に乾杯!」
奇抜な格好をした五人が炭酸飲料の入ったグラスを掲げそう言った。呆然と眺めていると、ハロウィンでよく見かけるジャック・ランタンの格好をした女生徒が近付いてきた。もちろん顔にはかぼちゃを被っているので胸にある膨らみで女性だと判断した。
「よろしく、庶務くん。私は会長の天使志乃。右から副会長の神宮寺朱鷺、書記の聖真子、会計の恋条透。書記の真子は君と同じ一年生だ」
会長であるらしい天使志乃が紹介した順に視線を巡らす。副会長の神宮寺朱鷺は大きな帽子とマントを身につけ、箒を持っていることから魔女の格好をしているとわかった。魔女の姿が恥ずかしいのか顔を赤らめ俯いていて、顔はよくわからない。書記の聖真子は真っ赤な帽子に真っ赤な上着とミニスカートを着ていることからサンタクロースの格好をしているようだ。右側にいる神宮寺先輩と比べると、とても小柄だ。別段神宮寺先輩が大きいのではなく聖が小さい。百五十センチもないように見える。そんなことを思いながら眺めていたら鋭い眼つきで睨まれた。身長と同様に愛らしい童顔だったが眼つきの悪さは尋常ではなく、視線から逃れるため最後の一人である会計の恋条透に目を向ける。恋条透はメイド服を着て甲斐甲斐しく働いていた。ショートボブにカチューシャが添えられ抜群に似合っていて、常に頬笑みを浮かべている。
「見惚れてしまったかな? 何しろうちは美人揃いだからね。気に入ってもらえたら嬉しい」
天使先輩は含んだような笑い方をしながらグラスを傾けている。
そんな先輩を見たら文句の一つも言いたくなる。何しろ僕はこの状況が全く理解できていないのだ。
「天使先輩。これはどういうことですか? 意味がわからないのですが……」
「どうって、新生徒会役員歓迎会じゃないか」
当たり前なことを聞くなと言ったように天使先輩は答える。
「僕は生徒会に入った覚えはないです」
「私が決めた。異論は認めない。それがこの学園のルールだよ。私が君を生徒会に入れると決めた時点で君は逆らえないし、先生や他の生徒だって逆らえないんだ」
何を言ってるのだこの先輩は。普通、役員というのは立候補して、投票を行い決まるものだろう。それを会長がルールだから僕の生徒会入りは決定してると言う。困ったので周りに助けを求めようと周りを見ると三者三様の表情で見つめる視線が返ってきた。
「会長の決定は覆せません、校則にそう記されているんです」
神宮寺先輩は諦めてくださいとでも言うように申し訳なさそうに言った。
「あなたなんて生徒会に必要ない」
聖は蔑んだ表情を浮かべながら拒絶する。
「生徒会は楽しいですよ」
恋条先輩は笑顔をそのままに生徒会を勧めてきた。
「冗談ですよね?」
「冗談ではないよ。生徒手帳に書いてある学則八項を読んでみたまえ」
天使先輩に言われ、生徒手帳を開き学則八項を読んでみる。
学則八項 生徒会会長に生徒会役員の任命権の全権を与えるものとする。生徒及び教師はこれに従うものとする。
「拒否はできないんですか?」
「できないよ」
苦し紛れに聞いても返ってきた答えは予想通りだった。加えて天使先輩は言った。
「学則八項以外にも生徒会長の学園での権限についての記述はたくさんあるんだ。暇なときに読むといい」
この学園が奇妙だと知っていたけれどここまでおかしな学園だとは思ってもいなかった。でも、どうして天使先輩は僕を生徒会に入れたいと思ったのだろう? 不思議に思ったので聞いてみることにする。
「なんで僕を庶務にしようと思ったんですか? 言っちゃなんですが、僕には特技なんてありませんよ」
「君が学園に入学した日を思い出したまえ」
僕は入学式の日のことを思い出すことにした。
作品名:庶務の僕にできること 作家名:師部匠