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奥野沙知子
奥野沙知子
novelistID. 41066
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あの日にかえりたい~最終章~

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ボサノヴァの
心地よい響きにまざって

しっとりと歌いあげる
ユーミンの声がする。

この歌は、カラオケでもよく歌うのに
こんなに歌詞が心に響くのは、

今、このタイミングで
この歌を
聞いてしまったからだろう。







泣きながら ちぎった写真を
手のひらに つなげてみるの

悩みなき 昨日のほほえみ
わけもなく にくらしいのよ

青春の うしろ姿を
人はみな 忘れてしまう

あの頃の わたしに戻って
あなたに会いたい



暮れかかる 都会の空を
思い出は さすらって行くの

光る風 草の波間を
かけぬける わたしが見える

青春の うしろ姿を
人はみな 忘れてしまう

あの頃の わたしに戻って
あなたに会いたい



いま愛を 捨ててしまえば
傷つける 人もないけど

少しだけ にじんだアドレス
扉にはさんで 帰るわ

あの日にーーー…





"ぴったりやん…"


私の心を歌ってくれてるみたいだと、
私は呟く。


自然食カフェの片隅でひとり、
ランチをしている私の耳に
突然、飛び込んできたのだ。

それまで、BGMなんて
気にもとめてなかったのに。


私の中に色んな思いが
溢れて来る。

手元のノートに
思いを綴る。




ユーミンの歌に
なぞらえれば、

少しだけにじんだアドレス
を頼りに
私は東京へいった。


あの時追いかけてた
彼の後ろ姿こそが

私の青春だったから。


私は、それを
忘れたくなかったのかもしれない。



でも、過去は過去。

もう、戻れない場所。


人はみな、忘れてしまう…
過去なのだ。




私は、今を生きたい。


だから、これからは

今そばにいる人たちを
大切にしよう。



もし、恋が学びなら

彼を失った分か、それ以上の何かを
今回の旅で私は
得たのだろうから。



この恋は確かに
誰も傷つけないけど、

私自身を少しだけ傷つける
恋だった。



・ ・ ・




"お飲みもの、ご自由に"

目の前の女性が
笑顔でおじぎをした。


"あ、はい、有難うございます"

このお店は夫婦で
経営されてるみたいだった。


旦那さんがご飯を作って
奥さんが接客をする。

大変だろうけど、
きっと、楽しいだろうなと思う。


そうやってすきなひとと
2人で何か同じことを出来るって
理想的だ。



"えー、まじ、おいしー♡
けんちゃん、これ食べて"

"え?これ、まじで?
…お、うまい!"

隣の席で、カップルがランチ中。


うん、こういうのもいいな。



なんだか
今まで、気にとめていなかったことがよく見えるようになった気がする。

なんだか、自由になった気がする。


知らず知らずのうちに私は

秀人に束縛されていたのかも
しれない。


"自分で勝手にそうしてたんやけど"

心の中でそう、自分に突っ込む。



私はこれからまた
新しい恋が出来る。


その事実は私にとって
魅力的だ。




大阪に戻って数日。
全てが現実に戻った感じ。


少なくとも、今の私には
生きていく力が、50%はあると思う。


自分の心の半分を、
自分自身で満たせれば、

例え1人でも常にハッピーに
生きていける。

もし、それが2人になれば
もっともっとハッピーだ。




もう、ふっきれた
なんて言うと

きっと大嘘になる。



だって、私は今も
あの日のことを思いだす。





彼の一番近くにいられた
あの日。




かえれるものなら…






かえれるものなら…




私は、あの日にかえりたい。



























完。