青探し<アヲサガシ>
俺はしばらく呆然としていたが、力なく立ち上がると、そのまま教室を出た。
気がつけば俺はふらふらと、学校を取り巻くように続く林道を歩いていた。
授業開始のチャイムが鳴り、辺りには誰も居なかった。俺はほとんどまともに思考することができなかった。つい最近まで普通に会話をしていたはずの相手に、自分がそこまで酷く拒絶されたことが、現実だと思えなかった。自分が自分でない者になってしまったような錯覚さえ、感じた。なによりあれだけの騒ぎを起しても、周りの生徒たちが俺を執拗に無視し続けたことへの恐怖が耐えられなかった。
そのまま歩き続けると、自然と足はリョウと最後に会話した場所に辿り着いていた。あの時、リョウを押さえつけた壁だ。俺はその壁を直視できずに背を向けて、林道の真ん中で泣いてしまう。嗚咽が漏れて、涙が止められなかった。
あの時は乱暴してごめんな、リョウ。本当に、ごめん。
「こんなところに居たんだ、探したんだから」と、後ろから声が聞こえた。
アイの声だ。騒ぎを聞きつけて、俺を探しに来てくれたのだろうか。
「ごめん、やっぱり、作戦失敗だったみたいだ」と、俺は慌てながら眼をこすり、泣いているのが彼女にばれないよう振り返らずに、言った。
「教室ではバケモノ扱いだ。こんなことになるなんて」
「なに言ってるのよ」と、アイは俺に明るい声で言った。「こういう時こそ、いつもみたいに笑わなきゃ、だって」
そんなアイの心配する声を聞いて、俺はいつまでも泣いている訳にはいかなかった。
「そうだよな、ありがとう」と俺は振り返る。
しかしそこには誰も居ない。そこには壁しかない。
何かがおかしい、と俺は気づく。この壁の向こうには何があった?
体育館だ、この壁は体育館の外壁だ、と俺は気づく。
<だって、あなたが青い人なんでしょう>と壁の向こうから声は聴こえた。
アイの眼球が青い色に染まっている事を、俺は彼女の顔を見ずとも気づいた。
作品名:青探し<アヲサガシ> 作家名:追試