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夏の夜話 「にじりよる」

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 夏ですから、紙森が今まで見た怖い夢をご披露しようかなと。
 はじめに申しておきますが、私は全然、まったく霊感はありません。


[ にじりよる ]


 今や日本一の怪談男・稲川淳二氏が似たような話をされていましたので、ありがちな夢なのかも知れませんが。
 一時期、テレビを観ながら寝てしまい、朝まで点けっぱなしってことが続いたので、120分のオフ・タイマーを設定して布団に入るようにしたんです。
 その日もいつものように電灯を消し、テレビもタイマー・モードにして横になりました。
 睡眠時間が短く、日常的に睡眠不足なので寝つきは良く、すぐ寝入ったのだと思います。いつもなら朝まで起きないんですが、タイマーが作動してテレビが切れた瞬間に、なぜか目が覚めました。

「あ、テレビ、切れたんだ」と思いつつ、仰向けの体勢を横臥。すると天井の一角から赤い光が「パッ、パッ、パッ」と、私に向かって降りてくるのを感じたんです。ほら、目を閉じたままでも強い光を目蓋に感じるでしょう? あんな感じです。
 もちろん目は閉じたままです。それにその天井の一角は、ちょうど私の頭の後方で、実際は見ることが出来ないわけです。だから夢なんですが、本人はすっかり目が覚めている感覚なんですよ。すでにその時点ですごく怖くて、キューッと目は固く閉じたままです。でも光は斜めに降りて私に向かって降りてくるのがわかるんです。

 やがて赤い光は、私の顔の前で一度大きく光って消えました。それでもまだ怖くて、掛け布団の中に頭からすっぽり潜り込んだのです。
 そしたら――背後、横臥した太ももの後ろ側に感触が。布団越しに何かがあたっているんです。
 それは丁度、人間の膝頭のようでした。正座した時の揃えた丸い膝頭。それが太ももの後ろにあたっているんです。
「えっ?」と思った次の瞬間、その『膝頭』がぐいぐい…と押すんです、私の太ももを。正座したまま進むって言うか、にじり寄ってくるんです。

 目はすっかり覚めていました。や、実際は夢、『覚めている』と言うリアルな夢なんですが、本人の脳は覚醒してるんです。それでも目は瞑ったまま空けられない。むしろ、一層固く瞑っていたと言えるでしょう。
 膝頭は尚もにじり寄り、怖さがマックスとなった時、身体は動かなくなりました。金縛りです。自分は動けないのに、膝頭は私の太ももを押し続けます。
 そのままでは、何だかとんでもないことになりそうで、「何としても目を開けなくては」、「何としても金縛りを解かなくては」…と、私は必死に指先に意識を集中。どちらかの手の中指第一関節がポキリと動いて、その瞬間、強張った身体から力が抜けました。「解けた!」と思うより早く、枕もとのテレビのリモコンを引っつかみ、スイッチ・オン。画面が明るくなって、部屋中を照らす勢いでした。

 すでに膝頭の感触は消えていて、私は掛け布団を思い切り背後に払いのけ飛び起きて、電灯の紐を(その当時はまだリモコンのを使っていませんでしたので)引っぱりました。
 部屋は本当に明るくなって、テレビは真夜中のバラエティを映していました。膝頭があったと思われるところには、払いのけられた布団が丸まっているだけで、何もありません。時計を見ると、寝支度をしてから30分も経っていませんでした、つまり、寝入りばなも寝入りばなだったわけで。
「ああ、夢だったんだぁ」と、私はテレビのボリュームを上げたのでした。

 当然その日は、朝までテレビも電灯も点けっぱなしでしたし、眠る気になれず起きたままでした。
 それからはテレビは点けっぱなしで寝るようになりました。夜中に目が覚めても、音や映像が現実だと実感させてくれるからです。ずい分、長い間、そう言う状況でやすみましたねぇ。今でもMDをイヤホンで聴きながら寝ます。
 
 以上が私の『怖い夢』でございました。
 楽しんで頂けましたでしょうか?
 え? 夢でないんでは? や、夢です(きっぱり!)