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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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苦労の多い墓参り

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   【 苦労の多い墓参り 】

 この丘を越えると楚下(そげ)村の共同墓地だ。
 お盆のこの時期、私は母と共に先祖代々の墓を訪れる。

「彩香、何を言われても無視するのよ」
 早足で丘の道を登って行く母が私に声をかけた。
「わかってるわよ」
 私は花をギュッと握り締め、墓地へと足を踏み入れた。


 墓には大勢の人がいて線香をあげていたが、顔見知りはいない。
 お互いに軽く会釈しながら、黙々と草をむしり、墓を拭いて掃除をするだけだ。
 
 しかし、そんな人ばかりではない。

「まあ、実松さんとこの由美ちゃんじゃないの? 娘さんも大きうなって」
 親しそうに母に話しかけてくる人がいた。
 源田のお婆ちゃんだ。彼女はこの村の古い住人で、亡くなってから十数年たつ。
 天に帰る日も近いのか、今や体は殆ど透けている状態だ。

 母は目を合わさず、軽く会釈をしただけで足早に通り過ぎ、先祖の墓に向かう。
「すげないねえ・・・」源田の婆ちゃんが小言を言った。

 私も気の毒だとは思うが、幽霊と話を交すわけにはいかなかった。
 もし私にそんな能力があると分かれば、頼って来る霊もいるからだ。
 
「あんた、よく我慢してきたわねえ」
 母は私に言った。

 母がこの能力に目覚めたのは、三年前に交通事故で頭を打ってからのこと。
 だが、私は生まれつき能力を持っていた。

 家の中であらぬ方向を指さして泣く私に戸惑い、母は何度も病院に連れて行ったという。
 そのたびに「小さな子共は、想像上の人物と話をしたりケンカをしたりするものです」と言われ、薬ももらえず追い返されたのだそうだ。

 けれど小学校に行くようになると、私は普通の子になった。
 母は、私が大きくなったから自然に治ったのだろうと思ったようだが、そうではない。

「幽霊を無視する方法を会得したのよ」
 私は母に小声で返した。


 母は先祖の御墓の前で、私が去年就職し、ボーイフレンドも出来たことを話した。
 御墓にいた母の両親は、とても喜んで、
「そりゃあ、良かった。彩香ちゃんの事はとても心配してたのよ」
「ほんに立派になって。もう一人前だなあ」
 と、口々に話しかけて来たが、私は聞こえず見えないふり・・・。
 これは辛いが、仕方がなかった。

「なあ、彩香が冷たいんじゃが・・・」
 祖父は笑いながら母に話しかけてきた。
 母は「当たり前でしょお父さん達、幽霊なんだから、受け答えはできないわよ」と答えた。
 
 祖父母は、私が小さい頃は「この子は見える人かもしれないな」と冗談を言っていた。
 大きくなってからは普通の人を装っていたので、今では見えないと思っていることだろう・・・。

 だが、そうではなかった。
 帰り際・・・、

「彩香ちゃんも一人では大変だと思うけどがんばってね」
「お母さんにはいつ教えてあげるんだい」
 と、心配そうに耳打ちして来たのだ。

 そう、お母さんは三年前に交通事故で亡くなり、祖父母の側の人になっている。
 でも、本人はまったくそれに気付いていないのだ。

「こういうのは自分で気付くまでダメなのよ」
 私はお墓に向かって手を合わせながら呟いた。

「どうしたの? 帰るわよ」
 母が私を即した。

 次々と話しかけてくる古い村人を無視するのは疲れるようだ。
 私は足早に母の後を追った。


 大きくなってから気付いた事だが、自分が死んだ事に気付かず、そのまま生活している人がなんと多い事か・・・。

 私が気付かせようと、それとなくこんな話をしても、「そうかもしれないわねえ」とか「気持ち悪いから止めて」と、まるで自分の事とは考えないのだ。


 今、私が話をしているあなたもそうなんだけどね。


    ( おしまい )