舞台裏の仲間たち 8~9
「冷たかったなぁ~
死ぬかと思った。
ほら、指先までこんなだもの・・・」
「無茶するなよ、一月の太平洋だぜ。
薄着のまんまで飛び出したりして、風邪をひいても知らないぜ。」
ツンとすましたいつもの茜の瞳が、
挑むような雰囲気を帯びて、上目使いで私の顔を見上げてきました。
何か深い訳がある時に、茜が決まって見せる癖の一つです。
どこかで同意を求めているくせに、人見知りをし過ぎているあまり、
立ち往生をして、ぎこちなくなっている
茜がそこにいました。
「いいじゃない。
私がどうこうなろうが、
今の、石川君には
全然、関係の無い話です。」
「そう、へそを曲げるなよ。
ただ心配だから、上着を持って来ただけさ。
この冷たすぎる太平洋の潮風だもの、
身体を冷やすと、あとで良くないぜ。
もう少し歩くにしても、
身体のためだ、
上着だけでも羽おっておけよ。」
「ありがとう、それもそうだわね。
たしかに、今は肝心なんだ。
母体なんだもの、余計に用心をしないとね。
身体はしっかり、
いたわらないとねぇ・・・」
「え?
それってお前・・・もしかして、
まさか、
妊娠してるっていうことか?」
「うん、妊娠、11週目。
別れた男の、置き土産。
まさかと思っていたけど、先日の検査で確定した。」
作品名:舞台裏の仲間たち 8~9 作家名:落合順平