少女
雑踏の中、白い服の少女と黒い服の少女が出逢った。
お互いに相手を見て首を傾げる。
白い服の少女の真紅な唇が少し開き、真っ白い歯が覗いた。
黒い服の少女は口を固く閉じ、ワインレッドの瞳を輝かせた。
『ごーめーん』
白い服の少女は黒い服の少女に話しかける。
それは、外には届かない声。
こんな少女ふたりが歩道の真ん中に立っているというのに誰も気にしようとはしない。
『だからーごーめーんー』
黒い服の少女のどこから声が出ているのかと思うほど表情を変えずに答えた。
『いいのよ。こうして逢えたのだから』
白い服の少女のサファイアブルーの瞳が漣(さざなみ)のように潤んだ。
『可笑しいわ。貴女が泣くなんて』
白い服の少女の漣漣たる涙。
街行く人たちが、空を見上げたり、掌を空に向けたりし始めた。
『帰ろうか』
黒い服の少女が白い服の少女の手を握る。
急に降りだした雨に駆け出す人。足早に雨宿りの場所を探す人。
黒い服の少女が白い服の少女の肩を抱くように包み込む。
ふたりの少女が溶け合うように黒い服の少女と白い服の少女の姿が交じり合っていく。
白い服の少女の瞳がパープルに染まっていく。
誰も気にもかけていないが、もう見えない。
お騒がせな通り雨は、すっきり上がった。
雲間に隠れていた真夏の太陽が出ると濡れた景色が輝いて見えた。
美しく空に掛かるアーチ。
雑踏の中、歩き始めた人たちの誰もが、空を見上げその現象を気にかけ見つめた。
―― アルカンシエル ――
ふたりの少女は何?
それはもう気にすることなどしなくても…きっと…いい。
― 了 ―