いつも
無機質なチャイムは鳴り響き、男子の半分は衝動的に立ち上がった。
「よっしゃー、とっとと行こうぜ、野球!」
「てめっ、今日はサッカーだろ!」
「九条、1on1するぞ!」
「太一、他も誘って、3on3してぇよ」
女子のほとんどはグループで群れ、雑談が始まる。
「ねぇ、今日の弁当どんなのー?」
「有希、あんたまた居眠りしてたろー」
「あ、明日香、ネロのCD持ってきたー?」
「はぁい。ねぇ、美華、聞いてよ、昨日テッちゃんがさあ」
そして群れから省かれた数人は静かに弁当を広げて食す。
いつもの一時だ。
私もいつものように本を広げた。
そして、入る。
禍々しい紅い眼をした少年は視線の先になにかを見つけ、笑みをこぼした。
獲物を狩れる衝動、喜び、心臓の鼓動がもたらす心地よさによる破壊の笑みだ。彼は獲物めがけて教卓から飛んだ。
その跳躍は周りの机を吹き飛ばし、音圧と風圧はガラスをことごとく割り、長い爪は床を抉った。
そして目標に辿り着くと、容赦なく片手を振るう。
その一閃は校舎を半壊させ、破壊音は耳をつんざく。
勝利を遂行した少年は、宙に浮いたまま優越感に浸った。
そして、やはり主人公の育ちの良さそうな顔をした同年代の少年が現れる。
「お前は絶対俺が倒す」
当たり障りのない台詞でその場は終息した。
キーンコーンカーンコーン
出る、時間か。
チャイムは私を現実に引き戻した。
私はそそくさと本をしまった。
たぶん、この本は今日読み終わるな、と見切りをつけ、私は次に読むであろう本について頭を巡らせた。
そこで目の前に、一人の男子が机越しに話しかけてきた。
「ねぇ、いま読んでたのってさ、」
男子は私が入っていた世界の名を発した。
私がコクリと頷くと、男子は嬉しそうに語り始めた。
私も中途ながら感想を言った。
楽しい議論だった。
いつもと違うときを過ごした。