永遠の音楽
ついに二人とも、もっとも似合わない場所へと行ってしまうのだ。音楽を奏でる為にあったはずの両手は銃剣を持たねばならず、美しい音色を聴くに長けた耳は、砲撃の音や死に瀕した断末魔の叫びを聞かされ続けることになる。それを思うと辛かった。不純な動機――尚さんの伴奏をしたいと言う理由――で音楽を続けていた私と違い、尚さんも信乃さんも心底、音楽を愛していたのに。
武器庫の事故に遭った時、死を身近に感じた。そこは戦場ではなく、爆発したのは自分達を狙って放たれた砲弾でもなく、周りは味方ばかりの状況であったにもかかわらず恐怖した。
尚さんが向かった先は紛れもなく戦地で、対峙するのは敵兵ばかりに違いない。
信乃さんが乗ろうとしているのは逃げも隠れも出来ない海原に浮かぶ艦だ。
開戦からこっち、どれだけの人間が戦地に散り、どれだけの艦が沈んだことか。
神様は左足を代価に私を助けてくださった。同じように尚さんや信乃さんにも情けをかけてくださらないだろうか。
「どうか、あの二人の命をお守りください。二人はきっと、僕以上に素晴らしい音楽を作り出してくれるに違いないのです」
私は手紙を握り締め、神様に祈った。