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2時14分

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2:14

 チックタックチックタック。
 ノートパソコンの横に置いてある目覚まし時計が、規則正しく時を唄う。
 ブログに書き込む記事を一旦テキスト形式で保存して、時計を見る。時刻は二時を回る頃だった。
 ――ああ、嫌な時間帯だな。そう思いながら、ボクは流し台に向かうとマグカップに粉コーヒーとお湯を注いで、パソコンの前に再び座る。だが、どうにも記事の続きを書くつもりにはなれない。
 窓の外はこの辺独特の静けさが満ちている。この静けさもまた気持ちが悪い。
 音楽でも聴いていればこの居心地の悪さもなくなるだろう。そう思ってヘッドフォンを手に取るが、ふと、ヘッドフォンとうめき声の怪談が脳裏を過ぎる。
 ある部屋で一人暮らしをしている者の怪談だ。その部屋ではうめき声が聞こえてくる時がある。その声は少しずつ近付いてくるが、そんな時は般若心経を唱えてやりすごすのだが、その日は音楽を聴いていた所為でそのうめき声が聞こえなかった、という怪談だ。
 このコピペを得意そうに聞かせてくれた友人を恨みながら、ボクはヘッドフォンを放り投げる。
 なんというか、この部屋にいたくない気持ちだ。だからといってこの時間から相手してくれるような、そんな相手もいない。
 ボクはその居心地の悪さに根負けしてしまい、その部屋から出て行くことにした。
 上着と財布を片手に外へ出る。
 冷たい空気が一陣だけ、乾いた道路を吹き抜けてゆく。
「寒いな。息が白いや」
 ここ最近急に冷え込んで、最近はいつも「秋はどこに行ったのだろうか」とボヤている気がする。
 自販機でコーヒーを購入した時だった、ボクはそれを目にした。
 家と家の間の小道、赤い紅葉の木の下を、彼らは行脚していた。
 彼らとは何か。それはボクには分からなかった。しかし彼らが少なくとも人間ではないということだけはなんとなく分かった。
 彼らはじぃっと前だけを見て、暗い紅葉の小道を歩いていく。彼らが向かっているのは、山の方だった。
 慌てて時計を見る。時刻は二時十四分だった。
 約十分間、ボクは彼らを見つめていた。その後眩暈と共に、彼らは姿を消した。

「二時十四分ねぇ」
 友人は訝しげに口を開く。
 確かに世間一般的に見て、二時十四分という時刻はキリのよい数字とは言えない。
「一時間くらい足したらキリがよくなりそうだな」
「むしろキリがなくなるって」
 3.1415なんたら。
「因みに俺は円周率を無闇に覚えようとしたことがあるぞ。ほとんど忘れてしまったがなっ!」
 だろうと思ったよ。
「なんというか、厭な気分になるんだよ、二時十四分って」
「まあ、そうだろうねぇ」
 普段は否定ばかりするその友人は、今回に至っては珍しく同意した。
 何というか、訳の分からない気持ち悪さがあるのだ。この数字には。キリが良い番号でもなければ、円周率でもない。ボクにはこの数字が何かの魔力を感じるようだった。
「というか、その時間は不味い時刻だからな」
「どういうこと?」
「丑三つ時って知ってるよな?」
 えーっと、確か昔の時間の測り方で、丑の時刻の三つ目だとかなんとか。
「一番お化けが元気にお仕事する時間だよね?」
「まあ、そんな感じ。で、その丑三つ時なんだが、大体二時から二時半を指している。つまるところ、二時十四分ってのは丑三つ時が折り返しの時刻になる直前だな。そりゃ、気持ちの良いもんじゃないだろうよ」
 魔の類が最も力を持つ時刻、ということだろうか?
「本来なら全てが眠りに付いている時刻。しかも一番眠りが深い時刻だろうよ。その時間が気になるってことは、とどのつまり『ンな時間まで起きてんじゃねーよタコス』って身体から言われているってことだよ」
 草木も眠る丑三つ時。一応人間は昼行性の動物なので、その時間に起きているのは人間の機能外のことだ。
 そう考えると、なんとなく分からないでもなかった。だが、それはあの行列の説明にはならない。
「ところで、その幽霊行列ってどの方向に向かってたんだよ」
「山の方だったよ」
 山の方に、白い装束を着た集団が歩いてゆくのを見たのだ。
「列を成す怪異幽霊というと、数は絞られてくるんだ。例えば狐の嫁入りとか、七人ミサキとか、後は幽霊列車か。だけどまあ、山の方に向かって行ったというと、あれぐらいだな」
「山に向かう怪異、なんてあるのか?」
「さあ? 幽霊やら妖怪ってのは結構数があるからな。もしかしたら俺が知らない中にそういうのもあるのかもしれないが、今回は思いつくのはアレだな」
「アレ?」
「死出の旅。要は死人があの世に向かう旅のことだよ。明かりのない星空の下を、山を尾根伝いに進むという過酷な旅さ。多分、お前が見たのはそれじゃないか?」
 そう言って、友人は会話を打ち切った。
 死出の旅、だったのか。
 きっと彼らにも、人生があったのだろうか。毎夜毎夜、あの世に向かって黙々と進む彼らを想う。
 きっとボクもそのうちあの行列に加わることになるのだろうか?
 願わくば、迷わずにあの世に辿り着けることを――。
作品名:2時14分 作家名:最中の中