飛行機雲の人
そうして、夏休みが終わった。
とうとう俺はBの名前を覚えることがなかった。
夏休みが終わり、新学期になってから俺と奴が関わることはなかった。
もう二度と。
俺は奴のことを忘れてゆく。
奴は俺のことを初めから覚えていないだろう。
それでも、たまに思い出す。飛行機雲の空を。
空を見上げる。青い青い、真っ青な空。底のない青空には雲ひとつなかった。
つまらないな、そう思う。
飛行機雲があればいいのに。飛行機雲が見たい。大空にまっすぐな線を引く心地よい雲…。
心は空白の空へ浮遊する。
空に浮かんだ風船。
空っぽの風船の中身には何の心も無い。自分の心すら無い。
誰の姿も浮かばない。
風船は果てまで浮かんでゆける。