最後に笑うのは誰だ―4
「行くぞ!」
集会は、もう形を成さなくなった。逃げる人々。健太郎がそういうと、健太郎の右手に炎に燃える赤い剣が浮き出た。
“炎の剣”
「ったく、何度やっても分からない奴だな……!」
応戦するような態勢をもった流星。今度はその片手に火の玉がともされる。
“炎の爆弾”
「な、何を始めるんだ、流星!止めるんだ、朱音!」
「は、はい社ちょ……」
「やめなさい、朱音!」
朱音が手をかざす数秒前。恵知が朱音のそれを制止した。葵はそれにびくりとし、同じく本家側に座っていた人間も、驚いて恵知を見る。
当の本人たちは、力を使って戦っている。喧嘩ではない。そこには生死がかかっている。名門土屋家に引き継がれる、炎・水・土・救急・創造の五種の“属魔法”…国の要人と土屋家本家しかしらない、不思議な力。その昔、万物を創造した神が、世界構築を手伝った褒美に与えられた、と、古い古文書に書いてあるが、定かではない。
ただ、その力はある、それが真実だ。
「属魔法は、高貴なものにしか与えられない不思議な力……旦那様は分家の出ですから、あまりご理解頂けないでしょうが、この力を持ってさえいれば、土屋の名で世界征服だって夢じゃありませんの。やっておしまい、流星。禍々しいその馬鹿君を、殺すのよ。」
恵知が、悪女がやるような高笑いをすると、葵や朱音も席に戻る。当主の葵でさえ、純血の恵知にはかなわないのだ。
母親の命も受けたことだし……と、流星の目が変わり、まるで戦隊モノのように、瞬間移動をしたり、火の玉で殴ったりと、名家の坊ちゃまらしからぬ戦いぶりで、健太郎をおしている。剣で応戦する健太郎は、なんとか流星の攻撃をかわしている。攻撃のタイミングを狙っているようだ。しかし、圧倒的有利は流星。
「やっぱり、分家の犬より、流星の方が上回っているみたいね。」と、恵知が解説。
「これで……終わりだ!」
と、流星が最後のボディーを入れようとした瞬間だ。
「旦那さま!」
健太郎の前で、着物姿の女性が盾になる。
「ば、ババア……?!」
「なっ……」
「流星!」
朱音の大声も、届かず。というより止められなかったのが現状か。
――健太郎の、使用人だ。
「ぎゃあああああ!!」
「クソ……ですって?」
朱音の手元が、昨日の流星のように、水色の球を浮かばせる。
“水の球”
「おーおー、彼氏と違ってやる気マンマンじゃねぇの。」
「あの方は土屋香澄……貴方が産まれたときから、ずっと面倒を見ていた方。それをクソと。悲しくはないの?元はと言えば、貴方のせいで亡くなったのよ!」
「うるっせぇんだよ!!!」
バチン。乾いた音が響く。前を向いていたはずの朱音の顔が、廊下の内庭を見ている。頬も痛い。
『私……叩かれた?』
副社長秘書の自分が。土屋でも名門の分家の出で、力――属魔法も上の中だと認められている自分が。たかだか、一般の分家の当主で、同い年だがヤンチャ坊主にしか見えない、この男に。
「フン。土屋家女ではトップの実力を持つ、なんて、実際こんなもんか。」
「……知らないの?ここは」
「ああ、母屋の廊下だ。力は使っちゃいけないな。だから殴った。」
「あんた……」
「忠臣蔵っぽくて、小気味悪いな。俺はお江戸の時代の主従関係なんて、真っ平だ。」
ダメだ。自分が冷静でいなければ。流星も健太郎も、熱くなるタイプだから。
でも
でも
馬鹿にされて、怒らない人間なんて、いないじゃない?
「殺されてもいい……」
朱音の右手が、青く光る。
「お、力使うか。流星に殺されるな。社長はもうご隠居だ。」
「ふざけるんじゃない!!!!!」
「朱音!」
朱音の大声とともに出された水球は、はっきりと出る前に大声で消された。流星だ。
「ダンナ登場~結婚できないくせに。」
「健太郎……何しに来た。」
「葵の爺さんに、話があってな。」
「親父に?」
肩で息をしていた朱音は、流星の腕の中で意識を失った。属魔法は、精神を削るためだ。あれほどの怒りで生み出されたなら、無理もない。
「……朱音にちょっかいだすな。」
「大切にしてんな。」
「大切だからな。この件は、伏せといてやろう。朱音が気にするからな。早く出ていけ。」
流星は朱音を抱きかかえると、仕事部屋もある離れに帰る。
その後ろ姿をクスクスと悪い笑みで見送ると、ポケットから携帯を取り出す。
「聞いてたか?英。あいつの弱点は、朱音だ。俺は葵の元へ行く。裏切んなよ。」
それだけ言って携帯を切る。向かう先は……
土屋家代表・土屋葵の部屋。
作品名:最後に笑うのは誰だ―4 作家名:小渕茉莉絵